人種問題を描いた、欧州国際映画向きの芸術路線作品。最後にあっといわされます。64点
ビフォア・ザ・レインのあらすじ
言葉
北マケドニアの山脈地帯にある修道院で修道僧のキリルは修行中だった。ある日、彼の部屋にアルバニア人の少女ザミラが隠れているところに鉢合わせする。キリルはほかの修道僧に打ち明けようとしたものの、少女の身の安全を考慮して黙っていた。
すると、修道院に武装した男たちがやってきて仲間を殺した女を探しているといった。彼らがザミラのことを探しているのは明らかだった。
ザミラが男たちに見つかったら命はない。キリルはザミラを匿おうと努めたがついにほかの修道僧たちに見つかってしまう。このままザミラを匿っていれば全員の命が危険にさらされるリスクがあった。
仕方なくキリルは修道院を出て、安全な場所へザミラと逃げることにする。
顔
ロンドンの雑誌社に努めるアンはピューリッツァー賞を受賞したばかりのマケドニア人写真者のアレキサンダーと熱愛中だった。しかしアンには夫がいた。
アレキサンダーは故郷で起こった紛争のトラウマを抱えていた。彼は自分と一緒にマケドニアに来てくれとアンに頼んだが、あまりに急すぎるとしてアンに断られてしまう。アンはその晩、夫と会い、離婚を切り出す。
写真
アレキサンダーは北マケドニアに帰国した。紛争の影響で国連軍の戦車が街をパトロールしていた。彼の故郷である山脈地帯の村はアルバニア人とマケドニア人のそれぞれの地域で分かれて生活していた。民族間による対立は続き、男たちは武装して警戒を強めていた。
アレキサンダーはかつて思いを寄せていたアルバニア人のハナを訪ねに行ったが、ハナの息子はマケドニア人に強い恨みを持ち、襲い掛かってきそうな勢いだった。アレキサンダーは複雑な気持ちでハナの家を後にした。
そんなある日、アレキサンダーの従弟がアルバニア人の何者かによって殺されてしまう。マケドニア人の男たちは怒り狂い武装して犯人を探しに行くことにする。
ビフォア・ザ・レインのキャスト
- グレゴワール・コラン
- ラビナ・ミテフスカ
- カトリン・カートリッジ
- キルコフ:ラデ・シェルベッジア
- ジェイ・ヴィラーズ
ビフォア・ザ・レインの感想と評価
読者の内木さんのリクエストです。ありがとうございます。内木さんからはこんな丁寧なお言葉をいただきました。
映画男さんこんにちは。
数年前から、映画男さんのブログを定期的に楽しませてもらっています。このブログのおかげで、
・彼女を見ればわかること
・恋人たち
・秘密と嘘
に出会うことができました。
「彼女を見ればわかること」は、一度観たあと、すぐにDVD購入しました。
以来、何度も観ています。観るたび、たまらないです。出会わせて下さり感謝しています。本題です。
リクエストの「ビフォア・ザ・レイン」は、10年くらい前にレンタルで観ました。
正直なところ、ユーゴ紛争や当時のマケドニアのことなど、当時の私には知識不足なことが多く、理解できていない部分もあったと思います。
それでも、この映画は強烈に印象に残っており、忘れることができません。
もう一度観たいのですが、とある1シーンが自分にとってトラウマレベルで頭に焼き付いていて、どうしても観ることができません。
ぜひ、一度映画男さんに観て頂き、感想を伺いたいです。長くなり申し訳ありません。
よろしくお願い致します。
では感想いきます。
ミルチョ・マンチェフスキ監督による、マケドニア人とアルバニア人の紛争と暴力の連鎖を描いた、ヴェネツィア国際映画祭金獅子賞受賞作品です。
三つのショートストーリーからなるオムニバス映画ですが、最後に三つの話がつながる作りになっていて、ストーリー構成においてアイデア勝ちしている映画といえるかもしれません。
そしてラストのサプライズで見事に物語のテーマを完成させていて、世界中で評価されたのも頷けます。ちなみにアカデミー賞にもノミネートしていますね。
ただ、マケドニア人とアルバニア人の複雑な民族間の摩擦を描いているので、日本人には分かりづらい部分が多々あります。
説明を極力省いているので、そもそもどっちがマケドニア人でどっちがアルバニア人だよって言いたくなるところから始まり、登場人物の出自を理解するには少し時間を要しました。
どこの国の映画も同じですが、民族間の問題はやはり歴史や背景を知らないと理解するのは難しいですよね。日本における日本人と在日韓国人の関係性を描いても、欧州の人たちには理解できないのと似ていて、登場人物に感情移入するまでにはいたらないかもしれません。
しかしながらそういったハードルがあったとしても、北マケドニアの絶景やそれぞれのキャラクターが直面する運命にはなにかしら心を動かされるのではないでしょうか。
背景はややこしくてもメインのストーリーやそれぞれのエピソードは単純なので、ひとつの戦争物語として見れるはずです。
といってもバイオレンスを売りにした戦争ものじゃないので、トラウマになるほどのシーンはなかったけどなぁ。リクエストをくれた内木さんは、どのシーンのことを言ってるんだろう。
僕はこの映画を数十年前に一度見ていて、そのときからかろうじて現在まで覚えていたのは写真家のアレキサンダーがタクシーの中で愛人の胸を揉む下りでした。記憶に残っていたという意味においてはあのシーンが僕の中での”トラウマ”シーンです。
つまりは世界中で評価されて、名作と呼ばれているのも理解できる一方で、実際はそれほど記憶には残らない話なのかなぁ、とも思ったりもします。なんせ胸に話を持ってかれちゃってるぐらいだから。
ビフォア・ザ・レインのネタバレ
この映画の最大の見所は前述の通りストーリー構成にあります。短編三部作のどれから見ても一周するようなループストーリーになっていて、そのつなぎ方が見事なのです。
ループ映画も色々あるけど、だいたいがSF、ホラー、スリラーなんかに使われる手法ですよね。
ここまでシリアスな紛争映画で、ループを使うっていう発想が斬新だし、オチの付け方や話のつなげ方に関してはお手本ともいえるんじゃないでしょうか。
一見、ラストとスタートだけがつながっているようだけど違いますね。「言葉」の葬式で埋葬されているのが、後に殺害される写真家のアレキサンダー本人なのが一番のポイントです。
つまり視聴者は時系列順に見ているつもりでも、実際は時系列順ではなく、かといって前後が入れ替えられているわけでもないのです。
冒頭の修道僧の「時間は決して終わらない。サークルは丸いわけじゃない」というセリフがそれを物語っていて、永遠と歴史は作り返される、というのをそもそも時間軸もオープニングもエンディングもないループストーリーの中で伝えたかったのかなぁ、というのが僕の見解です。
基本、僕はループ映画は嫌いなんですが、これは見事だと思いました。
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