2016/12/24

恋人たち

koibito

無名俳優による素晴らしい演技、完成度の高い脚本、リアルすぎる演出が冴えまくっている、邦画の歴史に残る名作。すごすぎて、もっと有名になっていないとおかしい映画です。91点(100点満点)

あらすじ

橋梁点検の仕事をしているアツシ(篠原篤)には、愛する妻を通り魔殺人事件で亡くしたつらい過去があった。自分に関心がない夫と考え方が違う姑と生活している瞳子(成嶋瞳子)は、パートの取引先の男と親しくなったことから平凡な日常が変わっていく。エリート弁護士の四ノ宮(池田良)は友人にひそかな思いを寄せていたが、ある日、誤解が生じてしまい……。

シネマトゥディより

映画恋人たちが高評価な理由はこれだ!

ぐるりのこと。」の橋口亮輔監督による、神がかかっているハイクオリティーな群像劇です。とにかく俳優たちの演技が素晴らしいです。こういう奴いるよなぁ、というキャラクターばかりで、演技じゃなくて実在する人物なのかと眼を疑うでしょう。

それにしてもあんなすごい俳優たちを一体どこで見つけて来たんだろう。みんな上手いんですよ。一人や二人ならまだしもほぼ全員ですからね。

なんで彼らが有名になっていないのか疑問で、逆に腹が立ってくるほどです。今こそ人気映画俳優たちと本当に実力のある俳優たちを総入れ替えするべきなんですよ。

どうやってあんなリアリティーを出すために演技指導したのか想像もつきませんが、よっぽど監督が一人一人の俳優と向き合って撮ったのでしょう。橋口亮輔監督のインタビューを読むと、その辺の撮影の裏側についても語っています。

>>橋口亮輔監督インタビュー

皮肉やユーモアの使い方が絶妙で、ワンシーンワンシーンにしっかりオチや見せ所があります。無駄なシーンが全然ないため、2時間20分という長尺も全く気にならないし、夜遅くに見ても興奮して寝落ちすることはないでしょう。普段寝るのが早い僕でも深夜1時半ぐらいまで、お目々ぱっちりでした。

ストーリーは、複数のエピソードが巧妙に絡み合っていきます。三人の登場人物を中心に、彼らのやるせない生活を映し出し、彼らの恋人を通じて、様々な心境をつづっていました。

「恋人たち」というタイトルがぴったりで、脇役として登場する人物たちもそれぞれ自分のパートナーとの関係に悩み、苦しみ、また喜んでいく姿がメインのストーリーを邪魔しない程度に描かれています。

同時にとても日本らしさが出ていて、現代の様々な社会問題を浮かび上がらせているのが見事でした。全体的に重い内容だけれども、笑えるエピソードが多いため、息苦しさが和らいでいくのが不思議でした。

名シーンを挙げていったらキリがないんですが、特に僕が気に入ったシーンを紹介したいと思います。

映画恋人たちの名シーンの数々

1、元女子アナの話

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元女子アナが旦那に愛想をつかせ、挙句の果てには結婚詐欺で訴えてやると言い出す、支離滅裂なシーンがすごいです。なんでもこの元女子アナによると、彼女自身が素晴らしすぎて一緒にいられるだけでも男は相当な利益を得ているんだそうです。だって元女子アナだから。

2、瞳子と旦那の関係

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瞳子の旦那は彼女とほとんど言葉を交わさず、性欲が溜まったときだけ何も言わずに合図をします。すると、瞳子は外にコンドームを買いに行き、二人はただの性処理とも言える味気ないセックスをするのでした。

あの二人の感じはやばいですね。リアルです。こういう日本人のカップル絶対いますよ。夫が禿げてて、いかにもダメ男そうなところがいいです。それも自分がやりたくなったのに、コンドームは妻に買いに行かせるという怠けぶりも最高です。

ああいう夫婦の形を描ける監督って今まで日本にはいませんでしたよね。美しくもなければ、エロくもない、ただの排泄セックス。映画で見たら笑っちゃいますが、おそらく他人ごとではない夫婦は多いはずです。

3、美人水

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スナックのママが水道水をペットボトルに入れただけの水を「美人水」と謳って高額で販売しているのが笑えます。本当かどうかは分かりませんが、彼女の自慢は元準ミスであることです。「準」というのがいいですね。グランプリじゃないんだっていう残念さが滲み出ていて、彼女の雰囲気や外見とマッチしていました。

ママは美人水をねずみ講のように売っていて、それで一儲けしてやろうといった、あくどい野望を抱いています。このシーンにしても、ただの笑いでしかないけれど、なんの根拠もない水素水とかに毎月何万円も使っている人たちが大勢いることを考えると、決して笑えないんですよね、日本の現状って。あのストーリーの中にはそういう皮肉も込められているはずです。

4、瞳子と不倫相手の絡み

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瞳子はひょんなことから、パートの取引先の男と親密な関係になり、寝てしまいます。セックスシーン自体は省かれていましたが、セックス後のシーンがやばいリアルです。

上半身裸でタオルを首にかけた状態の瞳子が、男のために冷蔵庫から冷えた飲み物を持ってきて、二人して上半身裸のまま世間話を始めるのです。そのとき男は何気なく瞳子の乳首をいじくりながら、普通の話をします。もうセックスをやり終えてるため特に恥ずかしがるわけでもなく、そこに胸があるから触るといった感じがリアルです。

あのシーンもすごいですね。そもそもあそこまで描こうとする監督がいないじゃないですか。リアルすぎて度肝抜かれました。俺もたまにああいうことするし、っていう男性視聴者も少なくないはずです。

5、カップルの立小便

幸せなカップルの象徴として、この映画の中で描かれているのが、酔っ払ったカップルがへべれけになりながら道を歩くシーンです。男のほうが「ちょっと小便したい。ここでしていい?」と聞くと、女は「いいよ、じゃあ私見てるからね」といって彼氏が小便をしているところを嬉しそうに覗き込んでいる、というシーンです。

酔っ払っていることもあって男も女も嫌がることなく、小便の最中ずっと二人は寄り添っています。その一部始終を主人公が後ろから見て感心しながら自分と恋人との関係と重ね合わせている、というシーンです。

これが下手な恋愛映画だったら、愛の象徴として使われるのは、余命わずかな病気の女のもとに必死で走っていく男のひたむきさだったり、女の命を守るために悪者に立ち向かっていく男の勇敢さだったり、といったベタな演出に終わっているところでしょう。

でもそんな手段は使わずに、他人からしたら不潔で非常識なことでも、恋人の間では美しい行為になりうるんだよ、というのを立小便のシーンを使って表現しているところに監督のものすごい才能とセンスを感じました。

ああ、こんなふうにいいシーンを挙げてたら、もう一回見たくなってきた。

>>「恋人たち」はU-NEXTで視聴できます

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