2015/10/30

彼女が消えた浜辺(原題 DARBAREYE ELLY/英題ABOUT ELLY)

別離」のアスガー・ファルハディ監督の秀作。「別離」に負けず劣らずの深い人間心理を描いた映画で、その面白さと精密さに思わずひれ伏してしまいそうになる一本。82点(100点満点)

あらすじ

テヘラン近郊の海辺のリゾート地にバカンスに訪れた男女の中に、セピデー(ゴルシフテェ・ファラハニー)が誘ったエリ(タラネ・アリシュスティ)もいた。 トラブルに見舞われながらも初日は楽しく過ぎ、2日目に事件が起きる。海で幼い子どもがおぼれ、何とか助かったものの、エリの姿がこつ然と消えてしまっていたのだ。

(シネマトゥディより)

文句

「別離」の俳優陣と同じ顔ぶれもちらほらいて、大勢のセリフが飛び交う難しい役割をそれぞれがきちんとこなしているのがお見事。これが日本映画だったら、上手い俳優たちの中に一人アイドルとか歌手とかが混ざったりするんでしょうが、そんなスキはこの映画にはありません。

次から次へと事態が悪化していき、その都度新たな展開が訪れるノンストップの心理戦には見ているほうも体力を奪われるほどの見ごたえでした。また、様々な謎を残しているところがさすがで、こういう映画は特に映画好きの男女がそれぞれの意見や解釈を持ち出してはディスカッションに花を咲かせることのできる数少ない映画でもあります。

おそらく多くの人の争点は、エリは死んでしまったのか、それとも失踪したのか、もしそうだとしたらなぜ? ということに尽きるのではないでしょうか。これに対しては様々な憶測があるようです。そのひとつは、エリは戒律厳しいイランにおいてフィアンセとの関係をなかなか断ち切れない現実に嫌気がさし、望まない結婚をして不幸になるくらいなら死んだほうがましだと思い自ら海に飛び込んでいった。その気持ちを良くあらわしているのが劇中に出てくる「永遠の最悪より最悪の最後の方がまし」というセリフ。この辺りが多くの人が指摘するポイントです。

僕的にはしかしそんなところよりも、自分がエリだったら自殺するか失踪したくなるような場面が他にたくさんありました。まずはセピデーの存在です。あいつは最初から最後まで嘘つきっぱなし、お節介しまくり女で、男女関係に厳しいイランにおいて宿のおばさんにあろうことか今さっき出会ったばかりだというのにエリとアーマドは新婚でこれはハネムーンみたいなものだから、なんとか部屋を提供して欲しいなどと軽率な作り話をします。軽はずみな嘘はイタリアとかで言ってくれと思うんですが、この女は厳格な国イランで言ってしまうのです。それが後々とんでもない問題を起こすというのに。セピデーの存在自体が人から生きる気力を削ぎ取ります。

嘘つきセピデーもさることながら、旅行に参加したほかの家族全員も難ありでした。彼らはエリとアーマドをやたらと冷やかしたり、旅行初日の夜にいい歳したおっさんおばさんたちが一堂に会してジェスチャーゲームに講じたりと、あまりにも幼稚なのです。そこで部外者のエリはこう思ったに違いありません。

苦しんだ末にフィアンセと別れて、この男と結婚したところで、どっちみちこのアホたちと一生付き合っていかなければならないのか、と。この結論に達した時点で自分がエリなら自殺します。

>>「彼女が消えた浜辺」はU-NEXTで視聴できます。