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シェイクスピアのプライベートをテーマにした家族ドラマ。小説を読んでるかのような感覚を残す作品で最後でまんまとやられました。72点
ハムネットのあらすじ
ウィリアム・シェイクスピアは、家族の借金を返すため家庭教師として働いている。ある日、教え子のもとを去る途中で、アグネス・ハサウェイが鷹匠の手袋を使って鷹を呼び寄せる姿を目撃し、二人は言葉を交わし、束の間の親密な時間を過ごす。ウィリアムの母メアリーは、アグネスが「森の魔女」と呼ばれる女性の娘で、薬草の知識を教え込まれたという噂をウィリアムに伝える。
アグネスは多くの時間を森で過ごしており、そこには不思議な洞窟があった。ウィリアムは森で彼女を訪ね、物語を求められると、オルフェウスとエウリュディケーの伝説を語り、アグネスを喜ばせる。彼女はウィリアムの親指の付け根に触れ、彼の未来を予言する。成功した人生と、死の床で二人の子どもに囲まれている姿を。二人は結ばれ、アグネスは身ごもるが、その結果、彼女は家族から勘当され、ウィリアムのもとに身を寄せることになる。二人は結婚し、アグネスは森の中で娘スザンナを出産する。
ウィリアムは、肉体労働を拒んだことで父ジョンに殴られ、激しく反発する。執筆に行き詰まるウィリアムを見たアグネスは、兄バルトロミューに頼み、彼を演劇の道へ進ませるためロンドンへ送ることを提案する。ウィリアムはアグネスとスザンナを残し、ストラトフォードに旅立つ。
やがて再び妊娠したアグネスは、外で出産しようとするが、ウィリアムの家族に止められ、家の中で双子のハムネットとジュディスを産む。ジュディスは死産のように見えたが、迷信を恐れず我が子を抱きたいと強く願ったアグネスの腕の中で、息を吹き返す。
11年後、成功を収めたウィリアムは時折帰郷し、子どもたちは深い絆で結ばれて育つ。双子は互いに入れ替わることができると信じ、服を交換して家族をからかっていた。劇団に入りたいと願うハムネットに対し、アグネスは彼の将来が輝かしいものになると予言する。やがてアグネスの鷹が死に、埋葬される。彼女は子どもたちに、鷹の魂に願い事をするよう告げ、その魂が心に抱いて運んでくれるのだと語る。
ロンドンに戻ったウィリアムは、ペストが流行する街をさまよい、疫病が人々を死へ連れ去る様子を描いた人形劇を目にする。一方ストラトフォードでは、ジュディスがペストに感染する。ハムネットは鷹の物語を語って妹を励まし、死を欺くため自分が代わりになると宣言し、彼女の隣に横たわる。ジュディスは回復するが、今度はハムネットが重篤な状態に陥り、息を引き取ってしまうのだった。
ハムネットのキャスト

- ジェシー・バックリー
- ポール・メスカル
- エミリー・ワトソン
- ジョー・アルウィン
ハムネットの感想と評価

「ノマドランド」や「エターナルズ」のクロエ・ジャオ監督による、シェイクスピアの小説ハムレットができるまでを描いた歴史フィクションドラマ。ウィリアム・シェイクスピアと妻のアグネスが出会い、3人の子供に恵まれ、そのうちの一人、ハムネットが病死したことで家族が絶望に包まれる物語です。
前半は16世紀後半のイングランドの田舎町を舞台に、夫婦の出会いから3人の子供の出産、そして家族の幸せな日常を淡々とつづっていきます。その様子はあまりにも静かでスローです。ドラマ性、ストーリー性にかけ、出産という大イベントはあるものの、映画の物語としてはやや見どころに欠けます。
物語が動き出すのは後半、子供が疫病にかかってからです。最初に病気になったのは病弱なジュディスのほうでしたが、彼女を看病した双子のハムネットが逆に息を引き取ってしまう悲劇に見舞います。そして物語はここからようやく本題に入っていくのです。息子を失ったことに耐えられないウィリアムとアグネスは立ち直ろうと奮闘するも、ハムネットの死を忘れることなど到底できそうもなかった、というのがあらすじで、それがかの有名な戯曲「ハムレット」の誕生につながっていく、というお話になっています。
ポイントはあくまでも、こんなことがあったんじゃないのか、そうだそうだそうに違いない、という勝手な解釈によるフィクションであることでしょう。ちなみに原作は、マギー・オファーレルの同名歴史フィクション小説。

シェイクスピア、普遍的な家族の物語、静かでソローな展開ってもう最初から映画祭をターゲットにした作品である臭いがプンプンしますね。批評家たちの大好物って感じがするもん。
見ようによっては悲しみと感動の押し売りととれなくもないです。暗い映画がダメだっていう人には向いてないでしょう。
その一方で子供を亡くした親、あるいは愛する人を失ったことのある人がもし見てしまったら、登場人物の痛み、苦しみが分かりすぎて共感すること、涙流すこと間違いないでしょう。人生最大の悲劇ともいえる子供を亡くした親の苦しみを、ウィリアムは作品に変えることで正気を保とうとします。それはもはや芸術家に与えられた宿命ともいえそうです。
アグネスはアグネスで、最初は自分の息子の名前を容易く舞台劇に利用されたことに怒りを覚え作品に傷つけられます。それでも最後の最後で非日常の体験をすることによってなんとか安らぎを得るのでした。
この映画もまたラストのクライマックスシーンに全てが詰まっているタイプの映画です。そこだけ見たら「ブゴニア」と同じ作りになっていますね。「ブゴニア」との違いは、本作はユーモアの隙を一切与えない愛と喪失の悲劇であるということでしょうか。そしてそれがあまりにも美しく幕を閉じるのです。もうそれはそれは今までの退屈は一体なんだったんだ、というほど評価がひっくり返るインパクトがありました。じわじわじわじわ話が進んで、最後に一気に落とすっていう体験がまさに小説、というか「芸術」を感じさせるものがありました。鳥肌立ったもん。
どこか「パフューム ある人殺しの物語」を彷彿とさせる圧巻のエンディングで、もしかするとこれがアカデミー賞作品賞獲っちゃうかもしれないなあ。アグネス役を演じたジェシー・バックリーは、主演女優賞もらっても誰も文句ないでしょ。
あのときウィリアム、観客、そしてアグネスは一体どんな心境にあったのでしょうか。それぞれが感じたことをどう解釈するかは視聴者の感性にかかってくるでしょう。アグネスが観客の顔を除き込むように眺めたあと、うっすら見せた微笑みが忘れられません。彼女は果たしてあのとき、あの瞬間だけでも心救われたのでしょうか。そしてそれをディスカッションする楽しみを残してくれる作品ですね。


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