普通に面白いけど、絶賛するほどではない時代劇。必見とまでは言わないけど、見て損はないでしょう。60点
キラーズ・オブ・ザ・フラワームーンのあらすじ
1919年、アーネスト・バークハートは第一次世界大戦から帰国し、兄のバイロンと叔父ウィリアム・キング・ヘイルの住む牧場で暮らすことになる。そこはオクラホマ州のインディアン保留地だった。そこで石油が惚れたことによってひょんなことからインディアンたちには多額の石油マネーが流れ込んできた。
そしてその石油マネーに飛びつくように多くの白人たちも保留地に移住してきていた。ヘイルはオーセージの言葉を話し、彼らに贈り物を与えるなど、オセージ族と友好関係を築いていた。しかし実は密かにオーセージ族のオイルマネーを狙っていた。
アーネストはタクシー運転手として働くことにした。やがてモリー・カイルという美人なオセージ族の女性を客としてアテンドするようになる。ある日、へイルはアーネストにモリーと交際するよう提案する。モリーの一族は油田の所有権を持ち、やがてその所有権の大部分が彼女に移ると考えられていた。
やがてアーネストとモリーの間にロマンスが芽生え、2人はカトリックとオーセージの要素を融合させた式で結婚する。すぐに子供にも恵まれ、幸せな生活を送っているように見えた。
しかしヘイルは秘密裏にいくつかの裕福なオーセージ族の暗殺を企て、次々のモリーの家族が殺害されていく。ヘイルはアーネストに、モリーの家族が死ぬ度に彼がより多くの所有権を相続すると伝えた。それを聞いてお金に目がないアーネストもヘイルに積極的に協力していくのだった。
キラーズ・オブ・ザ・フラワームーンのキャスト
- レオナルド・ディカプリオ
- ロバート・デ・ニーロ
- リリー・グラッドストーン
- ジェシー・プレモンス
- ブレンダン・フレイザー
- タントゥー・カーディナル
キラーズ・オブ・ザ・フラワームーンの感想と評価
「アイリッシュマン」、「沈黙 -サイレンス-」、「ウルフ・オブ・ウォールストリート」、「アビエイター」、「カジノ」、「タクシードライバー」、「キング・オブ・コメディ」などでお馴染みのマーティン・スコセッシ監督による、史実を基にしたインディアン差別映画。石油の権利をめぐって白人たちがインディアンたちを容赦なく殺しまくるサスペンス劇です。
巷では名作だ、傑作だのと言われている作品ですが、フラットな目線で見ると、まあまあの「良作」という感想を抱きました。キャストの演技も悪くないけど、特別いいかというとそんなことはありません。
一方でテーマのチョイスはいいですね。まさにアメリカの黒歴史ともいえるインディアン差別と虐殺を描いていて、それも土地をめぐっての争いではなく、石油鉱業権をめぐる争いというのがなんともアメリカを象徴する出来事で面白いです。ほんと、この頃からアメリカ人ってなんにも成長してないんだなっていうのが分かる話で、どれだけアメリカの白人たちが自分たちに都合よく生きてきたかを表していました。
舞台となるオクラホマ州のオーセージ族のインディアン保留地では1910年から20年代にかけてたまたま石油が見つかったことで、そこに住むインディアンが大金持ちになり、白人がインディアンの召使になるというパワーバランスの革命が起きます。
ところがアメリカの白人たちのご都合主義の法律のせいでインディアンたちは、裁判所が任命した白人の後見人の許可なく自由に自分のお金を使うことが許されませんでした。何を買うにもいちいち白人の許可が必要とかいうバカげた状況だったわけです。
日本では認知症や高齢の老人がお金の管理ができないからといって後見人が仲介して悪さしちゃうのが社会問題になっていますが、いわばこの土地に住むインディアン全員がその制度の対象に無理やりさせられちゃってたのです。
この辺のことについては映画の中ではさらっと触れられているだけでした。むしろこちらの動画のほうが分かりやすかったです。
白人の貪欲ぶりはその程度では収まらず、保留地に住むキングことヘイル(ロバート・デニーロ)は様々な寄付などをして地域に貢献しつつ信頼を勝ち取った裏で、インディアンの一族たちを裏で暗殺していき、最終的には石油の権利をごっそり持って行こうと企みます。
そのヘイルの言いなりになって悪事に加担するのがレオナルド・ディカプリオ扮するアーネストで、インディアン保留地が、半ば治外法権であることをいいことに、地元の白人たちと協力し、殺人事件をもみ消しまくり、やがてFBIが捜査に乗り出す、というのが物語のあらすじです。
正義と悪が極端に分かれているため、ハリウッド映画ファンにうってつけの単純明快な設定になっていて見やすいです。そのため約3時間半の上映時間も気にならないという声が多いんじゃないでしょうか。ただ、僕は気になりましたね。やっぱり長かった。
長いせいで途中で眠ってしまうリスクもあるし、集中力が切れるし、なにより疲れます。なので映画館で見るのはおすすめしません。別に派手なアクションがあったり、映像美を売りにしているわけじゃないので大画面で見る必要性がある映画じゃないしね。
長いなら長いなりにもっと詳しく解説するべき点が一杯あったと思います。後見人制度をはじめとする当時のインディアンと白人の背景もそうだし、白人がインディアンに対してどうだったかばかりを描いていてインディアンが白人に対してどうだったかが無視されていたようにも感じられました。なんであんなにインディアンたちが、金目当てで寄って来る白人たちと結婚したがるのか分かるようなエピソードがあってもいいですよね。
例えばインディアンの男たちは酒飲みで、暴力的で、仕事はしないわ、男尊女卑だわ、いいところがまるでないっていうようなエピソードとか、あるいはインディアンの女たちはある年齢を超えるとブクブク太るから嫌だとか、インディアン目線の意見や話があってもよかったですね。
結局のところ可哀想なインディアンたちを描いているようでいて、レオナルド・ディカプリオとロバート・デ・ニーロが全てを持って行っちゃう話にしてるじゃないですか。本当だったらオーセージ族目線で描くべき話なのに。
申し訳程度にヒロインを演じたリリー・グラッドストーンに建前上の重役を与えて、彼女にアカデミー賞を獲らせて丸く収める狙いですよね。それで私たちは人種差別に反対で、世界平和を望んでいて、LGBTに寛容でっていうんでしょ。この時期に差別映画を上映する時点でアカデミー賞狙いなのがミエミエだし。
ハリウッド自体がそもそも白人史上主義の中でできている業界だからか、差別、偏見、ヘイトなどを断罪するような映画ですら、ナチュラルに差別意識が出ちゃってるのが笑えます。
モリーの描写は特に酷いです。もう、どんだけバカ女に描いてんだよって。あれだけ家族殺されて、毒盛られて、夫も逮捕されてるのに夫のことまだまだ信じてるみたいな感じだったじゃん。さすがにインディアンの女性もそんなにナイーブじゃないでしょ。舐めすぎだから。
そもそもアーネストに惚れる要素があんまりなかったですよね。イケメンキャラというより、ダメ男キャラだったし、頼りがいないし、お金目当て丸出しだし、モリー的にどんなメリットがあったんだよって。
あと、アーネストが洗脳と言えるほど、叔父さんのヘイルに操られちゃってるのも理解しがたいものがありました。もうちょっとヘイルが滅茶苦茶に暴力的で、完全に暴力で支配していたっていうのなら怖くてなにもできないのは分かるんだけど、ヘイルが暴力性を見せたときはお尻をぺんぺんしたとき、ただ一度だけでしたよね。
特にカリスマ性やマフィアのボス的な貫禄があったかというとそんなこともなかったし、もうちょっと迫力があってもよかったですよね。やっぱりロバート・デニーロも歳なのかなあって思っちゃいました。「カジノ」や「ヒート」のときのようなオーラはもうないもんね。インディアンの言語を話しているときとかも、またどうせテキトウに喋ってんだろうなあと思って笑っちゃいました。
コメント
評判作だし、映画男さんが「見て損はない」と言うなら見に行こうか...と思いかけたけど。
やっぱり私の場合は見て損した気になりそうで、やめときます。
実話を元に「アメリカの負の歴史にスポットを当てる」(公式サイト等の呼び文句)なら、こんな作り方はチョロすぎる感じ。
その世界を描くなら『ウィンド・リバー』という傑作があるよ!あれは凄い映画だったのになーと、キラーズ~見た後でガッカリするのが自明に思えます。
*で、『ウィンド・リバー』を見返したけど、ホント凄い。再見なのにドップリ感動したので、そちらの欄に感想を投稿しました。
ウィンド・リバー面白いですよね
別にケチをつけるわけではないんですが、文中にあった「LTBGに寛容でっていうんでしょ。」というLTBGはLGBTのことを指しているのでしょうか?
ごめんなさい、ちょっとそこが気になって。
映画男さんの評論は読んでいても面白くてストレス解消になりますね~
私のような素人にも思いもつかない考えをお持ちで勉強しなくちゃと思わされます。
LGBTミススペルしてました、ありがとうございます
鑑賞後、正直スコセッシにムカついた。
ヒーロー映画やフランチャイズ映画をくだらないとか散々こきおろしといて自分は映画ファンスコセッシファンしか見ない賞獲りのクソ長い映画作ってんのかよ。
はっきり言って傲慢だね。
なるほど、そういう受け取り方もできるんですね
こんにちは。
アメリカで見ました。
長いのは知ってましたが途中退屈なので更に長く感じましたね…
マイノリティー女優にお飾り的に大役を与えてヨーロッパ系監督が受賞、という構図はまさに、ローマROMEでアルフォンソ・キュアロンがやりましたよね。それの二番煎じかな。
ただ、私自身、映画にならなければ、このオセージ族や、歴史上のこの事件を知らなかったということもあり。スコセッシが時代の空気を再現しようとしたことで、歴史を学ぶ機会にはなりました。
それでも思うのは、もう少し、主人公であるべきオセージ族(ネイティブ・アメリカン)側の視点が生かされていればなあ…。結局レオ様中心で、白人が作った白人目線の白人のためのストーリーになってしまったので、残念だなあという感想です。
※追記 先日、パルムドールを受賞した、アナトミーオブアフォールを見ました。
私は面白いと思いましたが、評価が分かれる作品かもしれないとも思いました。映画男さんの批評もぜひ聞いてみたいです。
アナトミーオブアフォールは見ます。おそらくアカデミー賞に絡んでくると思うので、そのときにでも紹介しようと思います。
原作の書籍がだいぶ前に発売されているから、「社会派映画」としてもなりたっていない。