序盤、名作の匂いがして、いつしかその匂いが焦げ臭くなっていく非常に惜しい映画。前半だけは本当によかったです。52点
朝が来るのあらすじ
すでに子供を産むには高齢ともいえる年齢に差し掛かっていた栗原佐都子と栗原清和の夫婦はそれでも赤ん坊を授かることを強く望んでいた。
ところが実際に検査してみると、清和が無精子症であることが発覚する。それから二人はわざわざ時間を見つけては北海道の病院に行って治療を受けていた。やがて二人はこれ以上無理をするのはよそうという結論に至る。
そんなときたまたまTVで養子縁組について知る。それをきっかけに養子を迎えることに動きだし、二人のもとに朝斗がやってきた。朝斗の生みの親はまだ中学生の女の子、片倉ひかりだった。
それから長い年月が経ち朝斗は幼稚園に通うようになっていた。幸せな生活を送っていた栗原佐都子のもとに突然電話がかかってくる。電話の主は朝斗の母親、片倉ひかりだといった。そしてあろうことか朝斗を返して欲しいというのだ。
朝が来るのキャスト
- 永作博美
- 井浦新
- 蒔田彩珠
- 浅田美代子
- 佐藤令旺
- 田中偉登
朝が来るの感想と評価
「七夜待」、「光」、「あん」、「2つ目の窓」 、「Vision」などでお馴染みの河瀨直美監督による、辻村深月の同名小説を基にした人間ドラマ。
前半30分ぐらいは最高なのに中盤から後半にかけてぐっちゃぐちゃになっていく、もったいない作品。
せっかく日本社会において重要な不妊や養子縁組といったテーマを扱っているのにも関わらず、そのテーマをストーリー自らぶち壊していく自爆映画と言ってもいい内容です。
物語は不妊に悩む40代のカップルが不妊治療を諦め、養子縁組に活路を見出していくところからスタートします。この夫婦のやり取りが素晴らしく、夫婦役を演じた永作博美と井浦新がとてもいい仕事をしていました。特に永作博美は良かったです。
そして子供が欲しいけどできない状況下で、夫婦がお互いに対する思いやりを見せる様子はただただ美しく、彼らに対して感情移入するのはそう難しくなかったです。おそらく不妊治療や子作りで悩んだ夫婦なら思わずぐっと来るんじゃないでしょうか。
ところがしかしそんな素晴らしいのも30分ぐらいまでで、視点が中学生の片倉ひかりに変わった途端に一気に話が面白くなくなります。
子供を望んでも授かれない夫婦と、子供を望まずして妊娠してしまった中学生をリンクさせるために両方の視点で描く手法を取っているんですが、これが大失敗していますね。まるで別々の映画かのように二つのストーリーの質もリアリティーもテンポもカメラワークもまるで変ってしまうのが残念です。片倉ひかり編になった途端、なんであんなにカメラ寄るんだよ。
まず、養子縁組ベビーバトンの代表が浅田美代子って。それだけでギャグになるのがなんで分からないんだろう。浅田美代子って長い間、バラエティー番組に出て自分自身で天然ボケのイメージをつけちゃったから、もう女優としては今後何十年もイメージの払しょくのしようがないよね。
そんでもってそんな天然浅田美代子が率いるベビーバトンが、夫婦と生みの親をつないでいくんだけど、なぜか生みの親と、子供を引き取る親を面会させるっていうヘビーなことをさせてるんですよ。日本はあんなのありなんですか?
それで生みの親のひかりが何年かして、自分の子供を引き取った育ての親の栗原夫婦の家に押し入って、金銭を請求するという怖い話になっていきます。百歩譲って話だけでも聞くにしても絶対に自宅に入れたりしないよね。だって電話の時点で金払えって脅迫してくるような奴だよ。
喫茶店でもどこでもいいから安全なところで会って、変な奴だったら警察呼べばいいじゃん。っていうか普通は脅迫電話が来た時点で警察行きだけどね。
栗原夫婦は企業で働き、タワーマンションに住んでいる、いわば高給取りなのに対し、片倉ひかりはこれでもかというぐらい不幸エピソードを詰め込んでいて、両者の極端な描き方も気になるところでした。
片倉ひかりは中学生で初めての彼氏との間に妊娠>家族の独断で学校を極秘に休んで赤ん坊を出産し、すぐに養子に出す>受験を控えた大事な時期に学校に戻る予定だったが、家族と喧嘩して家出>ベビーバトン、新聞配達と流れ着いて、なぜか同僚の借金の保証人にさせられ、お金に困って脅迫してしまう、というこれでもかというほどの同情を誘う、不幸の連鎖に仕上げていました。
そのせいで栗原夫婦のリアルでいい話が、極薄になって気が付いたら味がほとんどしなくなっちゃっていました。
さらに行くところもない、仕事もない、家族もいない、何もない片倉ひかりの終着点がラストの頃にはもはやどこにも残っておらず、物語が終わっても何一つすっきりしません。
最後、渾身の美化をして終わろうとしていたけど、あの後、あの子はどこに行くのよ?って疑問に思っちゃいますね。片倉ひかりの話はもっとソフトにするべきでしたね。普通に年月が経って、自分の息子に会いたくなったから、会わせてください、でいいのに。そのうえで生みの親VS育ての親のバトルを見せればよかったんだけどね。
結局のところ片倉ひかりが不幸になったっていうイメージしか残らなかったもん。ああ、もったいない。
コメント
一発屋にもなれなかったダメ監督