スウェーデンがお届けする、全く話が読めないけど、決して退屈しない怪物映画。ストレートに受け取ってもいいし、深読みしてもよさげな上質な芸術作品です。79点(100点満点)
ボーダー・二つの世界のあらすじ
スウェーデンの入国管理局で勤務するティナは、特別な嗅覚の持ち主で、目の前を通る人々が隠し持っている違法なものをいとも簡単に突き止めることができた。
ティナは奇形の顔を持ち、それゆえに人々から離れた自然に囲まれた家に恋人のローランドと静かに暮らしていた。
ローランドはほとんど働かず、ときおり犬のトレーナーの仕事をする程度で、あとは酒を飲んでテレビを見るような怠惰な毎日を送っていた。それでもティナにとっては誰かが家にいてくれることがありがたかった。
ある日の勤務中、ティナは背広を着た男を空港で呼び止め、持ち物検査をした。その男はメモリーカードに児童ポルノを隠し持っていた。
その一件をきっかけに児童ポルノを取り締まっている刑事にその特別な能力を認められたティナは、捜査に協力するように依頼される。
翌日、ティナは空港で別の不審な男を止めた。彼もまたティナと同じような奇形の顔をしていた。所持品を全て調べても違法なものはなにも見つからなかった。その代わりにティナは男に強いシンパシーを抱き、彼に近づきたいとさえ思った。
別の日、また同じ男を空港で見かけ、取り調べをしたことをきっかけにティナは彼が自分の家の近くのホステルに泊まる予定であることを知り、自ら男に近づいていく。
男の名前はヴォアといった。すぐに意気投合した二人だったが、ヴォアには信じられない秘密があった。
ボーダー・二つの世界のキャスト
- エバ・メランデル
- エーロ・ミロノフ
- ステン・ユンググレーン
- ヨルゲン・ソーソン
ボーダー・二つの世界の感想と評価
「マザーズ」のアリ・アバシ監督による、カンヌ映画祭ある視点賞を受賞したSFサイコスリラー。短編小説に収録されている同名ショートストーリーの映画化です。
個性と創造性に溢れ、強烈なインパクトと気持ちの悪さで、視聴者を物語の中へと引き込んでいく力強い作品で、こんなの初めて、という感想がぴったりです。
SFサイコスリラーといったけれど、ホラー映画といってもいいし、考えようによってはマイノリティーの叫びを浮かび上がらせた人種ドラマと捉えることもできそうです。
まず、ヒロイン、ティナの外見で一気に釘付けにされますね。どうですか、一度見たら忘れられないこのインパクト。
これ実はメイクです。でもメイク技術が高いので不自然ではなく、自然と映画の中の社会に溶け込んでいる感じが出ているのが圧巻でした。ちなみにアカデミー賞のメイクアップ部門にもノミネートされています。
さて、こんな外見をしたティナの能力がまた面白くて、ただ鼻がいいのではなく、人間の恥や罪悪感といった臭いまで嗅ぎ付け、空港を行き交う人々がどんなものを隠し持っているのか瞬時に当ててしまいます。
ある者はお酒を大量に隠し持ち、またある者は裸の画像が入ったメモリーカードを携帯の中に忍ばせたりしますが、ティナにかかれば鼻をクンクン言わせて隠し場所を当てるのです。
あんな職員がいたら最強じゃないですか。空港、港、国境辺りで勤務してもらえばどれだけ国の治安が改善することか。
そしてそんなティナの前にある日、同じ顔をした男ヴォアが現れます。
この時点で面白いもん。一体二人は何者だよっていう疑問が湧くし、ティナがすごい嗅覚を持っているとしたら、この男はどんな能力の持ち主なの?って思ってしまいますね。
同じ奇形の持ち主である二人が親近感を抱くのも自然で、辻褄が合うからストーリーの流れがものすごくスムーズでした。
ティナとヴォアの二人は急接近し、あろうことか映画史上に残るモンスター交尾を繰り広げます。それがまたすごいの一言で文字通り獣です。あんなに醜い交尾初めて見ましたよ。
また、ただゲテモノの絡みシーンを見せてマニアを喜ばせようという意図ではなく、一連のシーンにしっかりとした必然性と意味があって、ストーリーに結びついていくので説得力が違いますね。
そしてヴォラから自分の出自を教えられたティナが葛藤に苦しみながら、話はクライマックスへと向かい、サプライズと謎を残して物語は幕を閉じます。いい意味で、なんだこりゃな映画でした。
ボーダー・二つの世界のネタバレ
いい映画なので知りたくない人はこの先は読まないようにしてください。実際に鑑賞するまで我慢しておく価値は十分あります。
ストーリーは最初から最後まで意外な展開ばかりで、怖くて、気持ち悪さ満載の結末が待っていました。
まず、二人の正体はなにかというとトロルで、一見男性に見えるヴォラは実はメスのトロルで、女性に見えるティナがオスという仰天の性別スイッチが待っていました。
ヴォラは散々自分たちを虐げてきた人間たちに強い憎しみを抱いているのに対し、ティナは差別を受けながらも、決して人を傷つけることを嫌います。
ヴォラは人間に復讐するために人間の赤ん坊をさらい、自分が生んだトロルの胎児と取り換えることで復讐を実現しているのでした。そしてあろうことか誘拐した人間の赤ん坊を幼児愛者に売り飛ばしていたのです。
これを知ったティナは警察を出動させ、ヴォラを捕まえようとしますが、ヴォラは間一髪のところで海に身を投げます。
当然死んだと思っていたヴォラからある日、ティナのもとへと大きな木箱が贈られてきます。送り主はフィンランドのトロルコミュニティーとあります。そして箱を開けるとそこには生きたトロルの赤ん坊が入っていた、というのがオチです。
果たしてティナはあの赤ん坊をどうするのか。自分の本当の両親を人間に殺されたことを知った彼女は、もしかしたら子供を育ててるうちに人間に復讐を考えるかもしれませんね。あー怖い。
コメント
これは観たいわ!
これおすすめです。
映画自体はすごく面白かったのですが、日本公開版だと肝心なシーンにぼかしが入っているせいで、見た目と実際の性別が違う、という重要な部分が台詞から想像するしかなくなっているのが残念でした。
「ぼくのエリ」もそうでしたが、作品そのものの主題がブレてしまうような加工はやめてほしいものです。
いつになったらモザイク廃止されるんですかね。
先が読めない上に、全編を通しての不気味さ、とても好きな世界観でした。
北欧ホラー、いいですよね。
また、彼らの不気味さだけに焦点をあてるわけでもなく、サスペンスとしても面白かったです。
ただ育ててくれたお父さんは、お父さんなりに愛してくれたんじゃないかなあ、と少し悲しくなりました。
同じくあの交尾?にぼかしがあったのにはがっかりでした。
これは良作ですね