2016/03/12

ルルドの泉で(原題 Lourdes)

73点(100点満点)

ストーリー

不治の病で、長い間車椅子生活を余儀なくされていたクリスティーヌは、奇蹟が起こるといわれている巡礼地ルルドへのツアーに参加する。ツアーには、奇蹟を期待して、病を治したいという人や、単なる観光客など様々な参加者がいた。他の参加者たちと比べてさほど信心深くはないクリスティーヌだったが、これまでの孤独で閉ざされた自分の人生を変えたいと願っていたのだった。彼女の介護係には、マルタ騎士団にボランティアで参加した若きマリアが任命された。初めのうちは、クリスティーヌの身の回りの世話をしていたマリアだったが、次第に、同じくボランティアで参加している若者たちとの交流を優先させるようになり、病人たちを避けるようになっていく。

(goo映画より)


感想
ある少女に起こった奇跡を巡る人間ドラマ。スローで単調ながらところどころに注目すべきポイントがあり、主役から脇役まで様々な人の微妙な心理を上手く描いている秀作。さりげない手法で人間の愚かさや醜さを浮き立たせることに成功しているのがニクイ。クリスティーヌ扮するシルヴィー・テスチューの演技が自然で、大袈裟な感情を表に出していないのがよかったです。

面白いシーンがいくつもあったんですが、中でも一番正直で動物的だったのは、ボランティアの男が、クリスティーヌが歩けるようになった後、急接近して求愛した下りです。首から下の体を自由に動かせず、車椅子での行動を余議なくされている間にはほとんど相手にしていなかったくせに、普通に歩けるようになった途端に男はクリスティーヌを女だと認めます。そして山の奥へ連れて行ってキス。そのまま二人はさらに山奥へと消えていきます。この監督が上手いのは二人が山奥でそのあとなにをしたかをいちいち見せないところで、視聴者に判断を委ねるのです。となると、プラトニックな恋愛とかを信条としている中年のおばさんなんかは、「あれはきっと二人で手をつないで芝生に座って将来について語り合ったのよ、きっとそうに違いないわ」などと考え、その一方でスケベな男たちは「あの野郎。つい昨日まで下半身不随だった女とセックスするなんてどうかしてるぜ。でもあの子は確かにかわいかったなあ、ちくしょうあの男めえ」などと憤るのです。答えを見せないだけに様々な解釈ができるシーンがちらほらあって、友達とああでもないこうでもないと言い合える、そんな映画でもあります。

巡礼地であるルルドを舞台にしている一方で、ジェシカ・ハウスナー監督は宗教やそれにまつわる人々を皮肉っているようでもあって、それがまた愉快でした。奇跡は起こる、神の力は偉大だなどと説く牧師が、車椅子から立ち上がり、歩き出したクリスティーヌに起きた「奇跡」を目の当たりにして、まず真っ先に向かった場所が病院というのがなんとも間抜けで、本当はあの牧師は心の底からは奇跡など信じていなかったのでしょう。だからなんとか医学的な見解でその出来事を説明してもらおうとその道の専門家の意見を求めたのです。そしてまた喜ばしいはずの「奇跡」をほとんどの人たちが否定的に捉えていたのも興味深く、またやけにリアリティーのある展開でした。歩けるようになったクリスティーヌを心から祝福する者はおらず、周囲はただ困惑し、嫉妬に燃え、神に対しても疑問を抱く始末でした。なにより宗教心が強く、長年神に仕えてきた人よりも、旅行気分で巡礼に参加したクリスティーヌが報われる、という筋書きが信じる者は救われる的な宗教の教えに対抗するように現実の厳しさや不条理さを力強く伝えているようでもあり、こういう冷静な視点に共感できました。