作家、本当のJ.T.リロイ(原題AUTHOR: THE JT LEROY STORY)

衝撃的な自伝的小説で全世界を騙すことに成功した女小説家ローラ・アルバートの記録映画。詐欺か、それとも芸術か。見る人の価値観によって様々な解釈ができるドキュメンタリーです。55点(100点満点)

あらすじ

突如文壇に現れた謎の作家J・T・リロイは、体を売っていた過去をつづった「サラ、神に背いた少年」で世間に衝撃を与え、ガス・ヴァン・サント、アーシア・アルジェントら多くの人々を魅了する。しかし、その正体がローラ・アルバートという女性が作り上げた架空の人物だという暴露記事が発表され……。

シネマトゥデイより


文句

天才少年作家J・T・リロイとして秘密裏で活動していた女性と、それに加担していた家族の信じられない物語です。J・T・リロイの小説を読んだことがある人もない人もそれなりに楽しめる映画です。

J・T・リロイは、売春婦のシングルマザーに育てられ、義理の父親に性的虐待を受けたことからHIVに感染し、ヘロイン中毒になった、という過酷な人生を送ってきた少年です。

J・T・リロイは、自身の経験を基に小説を書き、有名な小説家に送ります。これがあまりにも衝撃的な内容だったことから小説家は大興奮し、出版の手助けをします。

そのことがきっかけで2000年に出版されたのが「サラ、神に背いた少年」です。

さらにその後「サラ、いつわりの祈り」が出版され、大ヒットとなり、J・T・リロイは文学の世界をはじめ、映画監督、俳優などのセレブたちからも強い支持を受けることになります。

ところがJ・T・リロイはそもそも存在せず、彼は中年で子持ちの女性ローラ・アルバートが作り上げた架空の人物なのでした。

しかしながら小説が大きくメディアで取り上げられ、様々な関連イベントが行われるようになると、いつまでも姿を隠しているわけにはいかなくなります。

そこでローラ・アルバートが思いついたのが自分の夫の妹サヴァンナ・クヌーにカツラとサングラスを着けさせ、公に登場させる案でした。サヴァンナ・クヌーはもともと小柄でボーイッシュだったことから、”少年”を演じるにはまさに適役。

しかし小説が映画化され、映画がカンヌ映画祭に出品されるようになると、彼らを怪しむ人々が現れ、ついにはニューヨークタイムズ紙に暴露記事が載ってしまう、というのが事のいきさつです。

議論の焦点となるのは、J・T・リロイを創り上げたローラ・アルバートは詐欺師なのか、それとも芸術家なのかということに尽きるでしょう。

おそらく多くの日本人は彼女に嫌悪感を抱くのではないでしょうか。なりすましといえば現代のベートーベン、佐村河内の件が記憶に新しいですが、そのとき批判的だった人は、ローラ・アルバートにはまず間違いなく抵抗を覚えるでしょう。

しかしローラ・アルバートの事態はさらに大きくて複雑です。ひとつはローラ・アルバートにそもそも妄想、虚言癖があり、多重人格的な症状が見られるのと、もうひとつはもともと文章を書くようになったのはお金儲けのためではなく、それが児童相談の電話カウンセリングの一環だったからです。

ローラ・アルバートは両親が離婚し、性的虐待を受けた過去を持つことなどから、現実逃避をするために自分以外の誰かになりすまして無料のカウンセリングに電話をかけていました。

その時点ですでにJ・T・リロイの原型となる少年のキャラが出来上がっていたことからしても、騙して金儲けをするのが目的だったというより、誰かに相手にしてもらいたかった、話を聞いてもらいたかったというのが本音のような気がしますね。

それでJ・T・リロイの人格を使って書いたら、たまたまいい作品ができたから、それを人に読んでもらいたくなった、自分を認めてもらいたかったというのが背景にあったんじゃないでしょうか。

そもそも本人が架空のネタを「実体験を基にした小説」として売ることに罪悪感を感じておらず、全く反省していないことが、ローラ・アルバートの頭のぶっ飛び具合を表しています。

悪いことだと思ってないから、小説が売れて有名になっても焦らないし、映画化されてカンヌ映画祭に行くことになっても、なりすまし役のサヴァンナ・クヌーを送り込んで、自分もスタッフとして一緒に参加したりします。あの図太さと度胸がすごいなあと思って笑っちゃいました。

ローラ・アルバートは、人気に火が付いてからもJ・T・リロイとして電話で大勢の人々と会話しています。公に姿を現すときだけ彼女ではなく、サヴァンナ・クヌーを送り込むという徹底ぶりで、彼女だけじゃなく、それに本気で加担しちゃってる家族もアホですね。

ローラ・アルバートに対する批判はさておき、多くの人々がJ・T・リロイの境遇やバックグランドに影響されて支持者となり、作品を買ってスポンサーになっている光景を見ていると、どれだけの人々が作品そのものをちゃんと見ていないのかが分かりますよね。

これは小説だけじゃなく、ほかの芸術作品にもいえることです。多くの人々は映画も音楽も絵も不必要な情報にばかり気を取られてほとんどが作品そのものを見ちゃいないんですよ。

結局、こういう件で騙されてる人、あるいは被害者面する人たちって、薄っぺらい価値観と偏見の塊なんです。

だから「10代の少年が書いた小説にしては面白い」、「まだ若いのにHIVに感染して可哀相。それでもあれだけ前向きに頑張ってるのはすごい」といった固定観念がJ・T・リロイに付加価値をつけていったのでしょう。

ローラ・アルバートは本作の中でこんなことを言っていました。

「だって本の後ろにフィクションって書いてあるじゃん」

大騒動を引き起こした本人が言うと、お前が言うなってなりますが、実際のところ「事実」と「事実を基にした物語(フィクション)」の違いが分からない輩が多すぎて困ります。早く滅びないかなぁ、事実馬鹿たち!

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