将軍様、あなたのために映画を撮ります(原題THE LOVERS AND THE DESPOT)

北朝鮮に拉致されて映画を撮り続けた不遇の韓国人監督と韓国人女優による、信じられない悲劇の実録ドラマ。ニュー・シネマ・パラダイスのホラー版といってもいい映画です。68点(100点満点)

あらすじ

1978年1月14日、香港で北朝鮮に拉致された韓国人女優チェ・ウニは、1983年に元夫の映画監督シン・サンオクと北朝鮮で再会。彼女が拉致されて間もなくシン・サンオク監督も拉致されており、当初北朝鮮は彼の意思による亡命と発表していた。“申フィルム”映画撮影所総長に任命された彼は、17本の映画制作を担当する。

シネマトゥデイより


文句

これ一本でホラー、スパイ、恋愛、政治ドキュメンタリーの全てが味わえる、複雑な気持ちになること間違いなしの作品。

実際に拉致された本人(女優)によるインタビューを中心に当時の肉声、写真、再現VTRを通じて、どのような経緯で二人が誘拐され、北朝鮮で生活し、また逃亡に成功したのかが分かる衝撃の内容になっています。

主人公は映画監督シン・サンオクと彼の妻であり、女優のチェ・ウニ。二人は映画製作を通じて知り合い、まもなく恋に落ち、結婚します。

ハンサムで男らしいシン・サンオク監督は、美しいチェ・ウニに対し、一生二人で映画を撮っていこうと誓い、結婚生活をスタートさせます。ところがシン・サンオク監督には愛人と隠し子がいることが発覚。二人はやむをえず離婚をすることになります。

軍事政権化にあった韓国では政府の介入や検閲も厳しく、映画業界の衰退と共に一時は飛ぶ鳥を落す勢いだったシン・サンオク監督もチェ・ウニもそれぞれ生活苦に陥ります。

そんなとき富豪から映画製作の話を持ちかけられ、香港にまで会いに行ったチェ・ウニは、北朝鮮の工作員の罠にはまり、無理矢理貨物船に乗せられ、連れて行かれてしまいます。

有名女優の失踪事件はメディアに大きく取り上げられ、様々な憶測が飛び交いました。しかし捜査は一向に進まず、元妻の安否を心配したシン・サンオク監督が自ら香港に向かうのでした。そしてあろうことかシン・サンオク監督まで北朝鮮の工作員の罠にはまり、連行されてしまうのです。

先日のマレーシアの金正男(キムジョンナム)殺人事件しかり、この誘拐事件しかり、そのあまりの大胆さはまるでスパイ映画のストーリーです。

この事件についてはうっすらと聞いて知っていたんですが、二人が同時に誘拐されたとばかり思っていました。実際は別々に誘拐され、それも何年間も北朝鮮で会わせてもらえなかったそうです。まさに飼い殺し。

最初に拉致されたチェ・ウニはそもそも元旦那も同じく誘拐されたとは知らず、またシン・サンオク監督はチェ・ウニが生存しているかどうかも確かじゃなかったのです。

一度は不倫スキャンダルを経て離れ離れになった二人が、運命のいたずらのように平壌で再会するまでの経緯は、奇妙と恐怖に包まれていて、どんなにぶっ飛んだホラー映画や恋愛映画さえ足元にも及ばない異常さがそこにありました。

別れたはずの男女も北朝鮮で再会したら、再び結束力を吹き返し、関係が修復する、というのがなんだか不思議でしたね。

あれを愛と言っていいのかなんなのかは分からないかれど、緊張状態の中で唯一頼られる相手がお互いに一人しかいなかったのだから必然だったのでしょう。

皮肉にも当時韓国でがちがちに表現が制限されていたのに対し、北朝鮮では自由に映画を撮る権利を与えられていたと二人は言います。

世界で最も不自由な国にいながら、映画作りに関しては北朝鮮は韓国の映画スターの二人を信頼し、何も口を出してこなかったようです。

映画製作の費用もいくらでも使うことができ、借金しながら映画を撮っていたときとは待遇が全く違います。監督としてはさぞかし複雑な気持ちだったでしょう。

もしかしたら二人は北朝鮮で幸せに暮らしていた時期もあったんじゃないのかなあ、とすら思えてしまいます。表現者として映画作りにあれだけ没頭できる環境はそうないだろうし、韓国に帰ったところで映画は撮れないからです。

その一方でいつ情勢が変わるかも分からない北朝鮮での生活には常に恐怖が付きまといます。

北朝鮮が自分たちのことを政治利用できる間はまだしも、いらなくなったらいつでも捨てられることを肝に銘じておかないといけません。そうした様々な葛藤を経て、二人は西側諸国に助けを求め、亡命することを決意するのでした。

女優のチェ・ウニが男たちに船に乗せられ、注射を打たれ、意識が朦朧とする中で北朝鮮の大地を踏んだときのエピソードが忘れられません。港に降り立ったチェ・ウニの前に金正日(キム・ジョンイル)が現れ、こう言いました。

「いやー、(船旅)お疲れ様でした!」

分かります、この恐怖? なんだったら乱暴にでも扱ってくれたほうがまだ状況が把握できるんじゃないかと思うような場面で、金正日はとても丁寧に対応してきたそうです。

誘拐を指示した張本人がニコニコしながら礼儀正しく、握手を求めてきては冗談のひとつでも言って場を和ませるのでした。腰が低くて、フレンドリーな独裁者とか怖すぎます。

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