不快だけど見ごたえのある芸術路線の恐怖映画。世の中で一番怖いのは人間、というのが分かる話でした。65点
映画「理想郷」のあらすじ
フランス人の夫婦アントワーヌとオルガはエコ&スローライフに憧れて、フランスからスペインの田舎ガリシア地方の山岳地帯にある小さな村に移住する。二人は自然とつながりを持ち、環境にやさしい作物を育てて販売し、放棄された物件を再生させ、再び人々に住んでもらおうといったビジョンを掲げていた。
しかし、彼らの存在は、近所の2人の隣人、アンタ兄弟の敵意をかき立てた。というのも風力発電会社が彼らの住む土地の一帯を買い取るオファーを出してきたにも関わらずアントワーヌとオルガがそれを断ったからだ。アンタ兄弟をはじめ村の多くの人々は土地を売った金で、田舎を出てより良い生活をすることを望んでいた。それがよそ者のフランス人夫婦のせいで叶わなくなったため恨んでいた。
アンタ兄弟の嫌がらせは執拗だった。彼らはフランス人夫婦の農場に侵入し、椅子に排尿したりした。さらに井戸にバッテリーを捨てて、鉛を混入させ夫婦のトマトを腐らせるといったことをやった。アントワーヌは地元の警察に相談に行くも、彼らは最初から仕事をする気がなく、取り合ってくれない。仕方なくアントワーヌはビデオカメラを手に持ち、アンタ兄弟の行動を録画していく。やがて隣人同士の争いはエスカレートしていき、殺人に発展していくのだった。
映画「理想郷」のキャスト
- ドゥニ・メノーシェ
- マリーナ・フォイス
- ルイス・サエラ
- ディエゴ・アニード
- マリー・コロン
映画「理想郷」の感想と評価
「おもかげ」で知られるロドリゴ・ソロゴイェン監督による東京国際映画祭グランプリ受賞作にしてスペインを舞台にしたサイコサスペンススリラー。実話からインスパイアされた田舎に住む地元住人VS外国人移住者の陰湿なバトルを描いた怖くて嫌な話です。
自分の意思でその土地に恋をして引っ越してきたエコ大好きな知識教養溢れるフランス人夫婦と貧しく学もなく仕方ないからその土地にいるしかない田舎者の家族。フランス人夫婦はできるだけ仲良くやっていきたいけど、隣人家族はそんなこと微塵も思っていない、という状況下で繰り広げられる大人のいじめをホラー映画のように見せていく作りになっています。
場所こそスペインですが、日本やほかの国の田舎事情とも重なる、あるあるトピックを扱っていて、とても遠い国の出来事や人ごとのようには感じませんでした。どこの国でも限界集落のようなところに行くとよそ者は煙たがられ、嫌がらせを受けるというのは同じなんですかね。
ただ、この話の場合、隣人の嫌がらせが殺人にまで発展し、行方不明者が出ても警察はろくに捜査しない、という遺族からしたら絶望の淵に落とされる悲劇の連続で、見ていてやるせなさやイライラが募ります。
同時に登場人物の誰にも共感できないフラストレーションがありましたね。それは悪者だけじゃなくて、主人公夫婦にも言えることで、土地にそれほど執着のない自分からしたら意地でもこの土地で頑張る、ここが私たちの理想の土地だから、みたいな夫婦の執念はちょっと理解できませんでした。生まれ育った場所でそれならまだしも海外の移住先にそんなに愛着を持てるのもすごいですよね。
人間関係のせいで移住に失敗したんだったら解決策はその土地を去るしかないだろって思うんですよ。頭が悪くて固い人たちが変わるわけないんだし。だから知らない土地に家を買っちゃうとか、山を買っちゃうってまあリスキーですよ。
かくいう自分も最近ブラジルの田舎に引っ越したんで、これから同じ目に遭う可能性があるのも承知で、この映画を見ていて余計に恐ろしくなりました。移住が上手く行くかなんてほぼほぼ運次第じゃないのかなあ。あとは人付き合いの上手さとかコミュニケーション能力とかも関係ありそう。この夫婦の場合、エコとかスローライフとか思想が強いからなかなか難しそうですよね。
また、都会ならまだ隣人ガチャに外れても関わる時間が限られてくるけど、ド田舎だとどこに行っても遭遇することになるので、余計につらいですね。飲み屋もガソリンスタンドも一つしかないからそこに行ったら絶対嫌いな奴がいるみたいな状況は救いようがないです。
本作はそういう逃げ場のない恐怖をリアルに描いていて、出演者たちの演技も上手です。悪役兄弟の意地悪な感じとか最高でした。
一つリアリティーに欠けたのは殺人のシーンでしょうか。あれだけ体格的に有利な夫が、二人がかりとはいえヒョロショボ兄弟に素手でやられてしまうのはないかなあ。せめて兄弟は武器で戦わないと、あんな首の絞め方で窒息しないからって思っちゃいました。それにフランス人夫も命を狙われてるって分かってるんだからナイフぐらい携帯しておこうよ。
全体的にはすごく面白いんだけど、エンタメ映画とはまた違うどんよりとした気持ちにさせる要素が満載で、人に勧めるべきかどうかは迷ってしまいますね。
スペインとフランスの合作なんだけど、物語のペース配分やリズムは完全にフランス映画のそれです。スローで上映時間も2時間を超えるし、もうちょっとスピード感あって短くてもよかったかなあ。あともうひとつぐらい恐ろしい出来事があったらなおよかったかもしれません。フランス人妻の娘が襲われるとかでもいいしね。
ラストはどうなんですかね。この手の映画にしてはなんかすっきり収まった感じがしなくもないです。むしろこれでもかというほどのバッドエンドのほうがこの映画には合ってると思いました。
コメント
序盤から悪口のオンパレード。
最初から最後までずっとこの嫌な雰囲気で、怖かったですねー。
こういうヒューマンスリラー本当大好きです。
仰る通り人間が一番怖いという事が如実に映像化されてましたね。
田舎と都会、各々良し悪しはあるけれど田舎は閉鎖的な分、人間関係が濃密で郷に入ったら〜精神が強いのは明白で、そしてそれが悪しにあたるとは言い切れないですよね。
私も田舎と都会がある発展国の世界共通事案な気がしました。
あの兄弟の気持ちも十分に理解できるんですよね。
もちろん、風力発電の補償金で余生を暮らせると思うのは甘いかもだけど、それを来たばかりの他人に咎められる言われはない訳ですし。
ずっと不穏というか怖い雰囲気もいいけれど(劇中曲も怖い)後半、主人公が死ぬのも驚きで、その後、妻が静かに戦うのが良かったです。
映画男さん、お引越し後の隣人ガチャは当たりでしたか?笑
隣人に一家族ちょっとやばいのがいるんですが、まあ静かに暮らしてくれてるんで、今のところ平和にやれてます
え?!やばい家族ですか?
何も起きない事を祈ってます。