テーマといい、演出といい、大衆向けというより映画祭向けに作っている初級者厳禁映画。普通の人ならまず寝るソフトLGBT作品です。38点
パワー・オブ・ザ・ドッグのあらすじ
1925年のモンタナ。牧場主の兄弟フィルとジョージはある日、レストランの営む未亡人のローズと彼女の息子ピーターと知り合う。フィルはウエイターをするピーターが男らしくないのを見ると、みんなの前でバカにしては恥をかかせた。フィルは牧場で働く男たちの前ではそうやっていつも強がって傲慢な態度を見せた。
自分の息子が侮辱されたことに心を痛めたローズをジョージが慰めようとした。ジョージは健気なローズに惹かれ、翌日に彼女のレストランを再び訪れると、自らレストランの仕事を手伝い、フィルとは違う優しさを見せた。
やがてローズも自分に良くしてくれるジョージを好きになり、二人は結婚することに。しかしフィルは金目当てだからやめておけとジョージに猛反対した。
ジョージは兄の助言を聞かずに早々に結婚の手続きを済ませた。牧場内でローズとの生活を始め、やがて医学部に通うピーターも休暇を牧場で過ごすことになった。
しかしフィルは執拗にローズに圧力をかけ、彼女の息子ピーターをみんなの前でバカにした。そのことでローズは酒に溺れるにようになり、息子のピーターは母親の身を心配するようになる。
パワー・オブ・ザ・ドッグのキャスト
- ベネディクト・カンバーバッチ
- キルスティン・ダンスト
- ジェシー・プレモンス
- コディ・スミット=マクフィー
- トーマシン・マッケンジー
- ジェネヴィエーヴ・レモン
パワー・オブ・ザ・ドッグの感想と評価
「ピアノ・レッスン」、「イン・ザ・カット」などで知られるジェーン・カンピオン監督による、同名小説の映画化で、静かな家族内バトルを描いた心理ドラマ。ヴェネチア国際映画祭の銀獅子賞受賞作にして2022年のアカデミー賞ノミネート作品です。
男性らしさ、同性愛、家族愛、支配などをテーマにした難易度高め、芸術度高め、エンタメ度低めの作品。いかにも欧州の批評家に好かれそうな静かでスローで抽象的な表現に溢れる内容になっています。
面白いかどうかでいったらまあつまらないです。退屈で話の展開が遅いので3度目でやっと最後まで見れるぐらいです。2回は寝落ちしました。
ネットフリックス作品だからまだそれでも何度も見直せるけど、これが普通の劇場公開映画だったらきついものがありますね。一度寝たらもう一度映画館に行こうってならないもんね。
ただ、最後までのんびり見れる精神状態が備わっていれば監督が伝えようとしていていることが分からんでもないです。それを評価するかどうかはまた意見が分かれるところですが。
物語は牧場主の兄弟の兄フィルを中心に回っていきます。フィルは典型的なカウボーイで粗野で口が悪く、男尊女卑の見本のような男です。
そんなフィルは弟が未亡人で連れ子のいるローズと結婚することに嫌悪感を抱き、ローズと息子のピーターに意地悪なことばかりしていきます。まるでフィルは息子を別の女性に取られた姑のような嫉妬心や対抗心に燃えるのです。
見方によってはフィルが終始家庭内パワハラをするストーリーにも見えてしまいます。しかしローズの息子ピーターが家に来てからストーリーの風向きが変わります。草食系でフェミニンなピーターにフィルは態度を変えて徐々に距離を縮めていくからです。
早い話、フィルは実はゲイで、その反面人前では男らしさを演じていて、男性優位社会が求める男性像を作っているのでした。
フィルにはかつてカウボーイの鏡ともいえるメンターがいて、生前の彼と愛人関係にあったことが暗示されていましたね。つまるところフィルはピーターにかつての自分自身を見ていたのかもしれません。あるいは彼だけには自分自身をさらけ出すことができるのではないかと思っていたのでしょうか。
一方でピーターはゲイだったんでしょうか。それは結局のところ語られなかったんですが、二人して山に登っていったときはもういつ始まってもおかしくない雰囲気でしたね。
あるいはピーターはフィルがゲイであることをいち早く察知し、まんざらでもない素振りをしてフィルに近づいていったのでしょうか。
ああ見えてもピーターは男たちに罵られても堂々とし、父親が自殺をしても冷静に対処したりと、外見にないメンタルの強さがありましたね。それがまた男の強さとは一体なんなんだ、と問いかけることにもなっていて、そんな姿にフィルは一種のリスペクトを抱いたとも考えられそうです。
いずれにしても最後はピーターとフィルの立場が逆転したようにも思えました。フィルが必死でピーターのためにロープを結んであげる姿とかもはや片思いしてる女の子みたいでしたもんね。
この映画の悪いところはその辺の二人の関係性や同性愛についても全てちょろっと匂わす程度に意図的に抑えているところでしょう。それを文学的とか芸術的といったらそれまでだけど、ストレートに表現して欲しい僕にとってはじれったいんですよね。ラストだけ曖昧ならまだしもずっとその調子だからね。曖昧のまま2時間以上はさすがにきつかったです。
また、ラストに比重を置きすぎていて、それ以外は全部長いフリのような印象も受けました。こんな映画こそもっと官能的で暴力的でもよかったかもしれませんね。
パワー・オブ・ザ・ドッグのねたばれとラストの意味
フィルは最後病気に倒れ、息を引き取ります。もちろんただの病気ではないことは明らかです。フィルが炭疽症にかかったのはピーターが計画的に殺そうとしたからに違いないです。
ピーターの目的はただ一つ。フィルによって受けたストレスでアル中になり、今にも廃人になってしまいそうな母親を救うことです。
そのためフィルがうさぎを捕まえようとして手を怪我したのを見逃さず、山の中で倒れていた動物の死骸から採取した炭疽菌をフィルの手に移したのでしょう。それをまるでフィルに心を開いたかのような態度で冷静にこなしたのは恐ろしいですけどね。ずっと弱いふりをし、相手を油断させ、暴力ではなく知識で人を抹殺する仕事人です。
本来なら弟のジョージが引っ越して家を出ていくなどしてローズを守らないといけない立場なんだけどね。なんでピーターに手を汚させてるんだよっていうね。
ラストで母親のローズとジョージが仲良くしているところを窓から見てほほ笑んだピーター。彼はフィルに少しでも気を許すことはなかったのでしょうか。男性として惹かれるところ、同性としての魅力を感じていなかったんでしょうか。最の夜二人は一線を越えたんでしょうか。縛ったり、縛られたりしたんでしょうか。いずれにしても悪い男ですねえ。
コメント
原作小説を読むと、別にLGBT的な内容ではなく、映画監督が原作の中の小さじ一杯程度のヤオイ要素を拡大解釈して、力技でLGBT作品に仕立てたという風な印象。(例えていうなら、「明日のジョー」をジョー✕力石のLGBT物にして、最後ジョーが陽子お嬢様とくっつかないのは、力石を愛していたから、ぐらいの力技)
映画が分かり辛いのは、原作が難解だからではなく、そういう監督の独自解釈によるコンセプト変更があるから。映画だけ見る限りでは主さんのレビュー通りの感想なんだけれど、原作読むと「あれ、これ全然テーマ違うくね?」という疑問を抱く。
何か原作小説の作者がゲイ(結婚しているからバイか?)だから、何か小説作品のテーマも同性愛だろ、ってのもある種の偏見ですよね。(例えば三島由紀夫もバイだけど、彼の作家テーマの主体は別に同性愛じゃないし)
まさに原作と映画は別物ってタイプの作品なんですね。
私は好きでした、この映画。
フィル役のカンバーバッチさんが役に入りきるために、ずっとシャワーを浴びなかったり、休憩時間も役にはまり続けていたり、他のスタッフと交流を持たなかったりしたらしいけど、そこまでしなけりゃできない役柄じゃぁないよね、というのが感想ですが。。。
なんとなく、そういうところで、えばってる俳優さん多いですよね。役になりきるためにXXをしたって。そこまでしなけりゃ役になり切れないのは才能がないからじゃないの??なーんて時々意地悪く思ってしまいます。
まぁ、とにかく皆さん素晴らしい演技で、私は楽しめました。とくにピーター役の彼、実は役者さんとは思いませんでした。あらまぁ、どこの素人さんを連れて来たんだろうと思いました。ひょろひょろで役柄にぴったりだったので、映画に出ない?って誘ったんだろうとばかり思っていました。
フィルにお手製の紙のお花を台無しにされて、裏庭で怒りのフラフープをするところでは家族で大笑いしてしまいました。
でも、好きでした。この映画。
私も途中ぐっすり寝ましたw
作品から伝えたい事はわかるけど、それがいまいち弱くて、ママの仇討てて良かったね、という感想だけでした。
他の方の力技LGBTQ映画コメントは面白かったですw