構成やストーリーテリングがユニークで、そこそこ面白く見れるフランス映画。殺人事件ものだけど、それだけに収まらない芸術性も兼ね備えています。62点
悪なき殺人のあらすじ
フランスの山岳地帯の村で吹雪の夜、裕福な中年女性エヴリーヌが自動車を道路に放置したまま失踪した。警察は行方を追ったが、エヴリーヌは見つからず、住人たちに事情を聞いて回った。
農夫のジョセフは母親を亡くし、孤独に襲われ精神的不安定になっていた。警察は彼のことを不審に思った。農園を営む夫を持つアリスはジョセフと不倫していた。そしてそのことを夫のミシェルは知っていた。
エヴリーヌが失踪してからというものジョセフの様子がますますおかしくなっていった。ある日、ジョセフの家にエリスが行くとジョセフの愛犬の死体が転がっていた。誰かに撃たれて死んだんだそうだ。何があったのか心配するアリスをよそに、ジョセフは自分に付きまとうとするアリスに嫌気がさし、彼女を家から追い出してしまう。
一方、アフリカのコートジボワールの最大の都市アビジャンではアルマンが仲間と共にサクラとなってインターネットのチャットでフランスの男たちにハニートラップをかけようと企んでいた。そしてそのことが思わぬ事件へとリンクしていくのだった。
悪なき殺人のキャスト
- ドゥニ・メノーシェ
- ロール・カラミー
- ヴァレリア・ブルーニ・テデスキ
- ダミアン・ボナール
- バスティアン・ブイヨン
- ギィ・ロジェ・ンドラン
- ナディア・テレスツィエンキーヴィッツ
悪なき殺人の感想と評価
「マンク破戒僧」のドミニク・モル監督によるフランスのサスペンスドラマ。フランスとコートジボワールを股にかけた複数の登場人物の行動がある殺人事件へとつながっていく様子を描いた群像劇です。
舞台はフランスの山に囲まれた田舎町とコートジボワールの大都市。フランスの田舎町では狭い社会で顔見知り同士の住人たちの間に様々な摩擦があり、そこでドロドロの不倫劇が繰り広げられます。
一方のコートジボワールでは若者が遊ぶ金欲しさにネットを使って遠く離れたフランス人のおっさんたちを騙そうと、サクラになって様々なハニートラップをしかけ、お金を引っ張ってくる様子を描いていきます。
一見、全く無関係の二つのエピソードですが、ストーリーが進むごとに密接にリンクしていくのが特徴で、なぜ被害者女性は殺されたのか、そして誰が殺したのかをそれぞれの登場人物の視点で発見していく群像劇に仕上がっていて、ストーリー構成がとても優れていました。特に視点の切り替えが上手いです。
ポイントは殺人事件のサスペンスドラマにも関わらず、事件を解決することに重きを置いているわけではないということです。なので刑事が事件の手掛かりを探して犯人捜しをする、という話ではなく、登場人物たちの行動から殺人の動機と犯人が明らかになるようになっていました。つまり警察の目線だと事件は永遠に闇の中のままなのです。そしてそれこそが本作の個性的なところだと感じました。
お色気シーンがいくつかあったり、サプライズがあったりと娯楽映画と芸術路線の中間を行っているのでフランス映画に慣れていない人でも見れるはずです。ハリウッド映画とはまた違った雰囲気の映画を味わいたい人はぜひ見てみてください。
問題点はコートジボワールのパートでしょうか。複数の話がリンクするのはいいけど、別にフランスだけの話にしてもよかったんじゃないかなぁ、という印象を受けました。あまりにも唐突に景色が変わる二つのストーリーに視聴者は少なからずとまどうでしょう。
中盤、終盤ならまだしもどんな話が分からないうちの冒頭のシーンでいきなりコートジボワールからフランスにシーンがジャンプしていくのはあまり効果的ではなかったですよね。
それにコートジボワールのパートに移る度に事件から遠ざかっていくような、テンポが間延びするような感覚を覚えるので、やっぱりフランスオンリーの話にすべきだったなあ、というのが正直な感想です。
コートジボワールの少年アルマンの恋愛とかも不必要だよね。それがラストのオチにつながっていくとはいえ、ちょっと時間を取りすぎましたね。
それに対し、誰が殺したんだろう。一体どんな理由で犯行に及んだんだろうという好奇心はそそられる作りになっているので無駄な部分はありつつもサスペンスとしては一定の質を保っています。
犯人もどれだけバカなんだお前はっていう奴で、救いようのない行動の数々は恐怖であると同時にコミカルですらありました。いくらなんでも犯人がコートジボワールまで行っちゃう下りはやりすぎですね。それになんの目的で行ったのかはよく分からなかったし。復讐がしたいのか、自分を納得させたかったのか。もう答えが出ているのに、あえて自分の目で確かめに行きたかったのでしょうか。
個人的には既婚熟女マダムと若いウエイトレスの不倫劇が良かったです。マダム役を演じたヴァレリア・ブルーニ・テデスキは50歳を過ぎてあの色気って信じられないですね。
ヴィジュアル的にもストーリー的にもセクシーだったし、男と結婚している女性が同性の若い子と不倫する、という設定が現代ぽくって好きです。
あのマダムは果たしてバイだったのか、それとも本当は同性愛者でそれを偽って夫と結婚した可能性すらありますよね。二人の間には子供がいなかったし。そうなると相当悪い女である可能性があるんですが、夫も夫でよろしくやってたのがさすがでした。
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