犯罪者が聖職者になりすます、芸術路線のポーランド映画。説明足らずでよく分からない部分もありますが、全体的には面白いです。64点
聖なる犯罪者のあらすじ
殺人の罪で逮捕されたダニエルは少年院に入院中、信仰に目覚めていた。お祈りの時間、ダニエルは特別なものを感じていたのだ。
彼は少年院を出たら神父になろうと夢見ていたが、犯罪歴のせいでそれは叶わないだろうと自分のことを少年院で面倒見てくれた神父から言われていた。
少年院を仮釈放されたダニエルは小さな村の製材所で仕事をする予定だった。ところが彼は製材所の近くまで来ると中に入らず、教会を目指した。
教会ではマルタが祈りを捧げているところだった。ダニエルはマルタに話しかけ、牧師だと名乗った。マルタはどうせ製材所で働いてるんでしょと信じようとしなかったが、ダニエルが聖職服を見せると、その教会の司教代理に紹介してくれた。
それ以来、ダニエルは自分の身分を隠しながら牧師としてその村で働くことになるが、、、
聖なる犯罪者のキャスト
- バルトシュ・ビィエレニア
- アレクサンドラ・コニェチュナ
- エリーザ・リチェムブル
- レゼック・リコタ
- ウカシュ・シムラト
- トマシュ・ジェンテク
- バーバラ・クルザイ
- ズジスワフ・ワルディン
聖なる犯罪者の感想と評価
ヤン・コマサ監督による、2020年アカデミー賞国際長編映画賞ノミネート作品。少年院から出てきたばかりの青年が牧師のフリをして田舎町で別人の生活を送る奇妙な物語です。
実話を基にしたなどと言われていますが、牧師のフリをした人が過去に実際にいた、というぐらいで劇中のストーリーと実際の出来事とはほとんど関係ないそうです。
ただし、元犯罪者が宗教の道を進む、という話は実際にもある話なので、リアリティーは十分だし、色々と考えさせられるテーマではあります。
主人公ダニエルの場合、牧師になりたい、という思いがありながら、犯罪歴のせいでそれが叶わず、偶然が重なって小さな村の教会を仕切る司教代理と出会い、彼の代わりを務めることになります。
自分の経歴を嘘で固め、未経験のまま、懺悔を聞いたり、ミサを開いたりするうちに彼は次第に様になっていき、村人たちの信頼を得ていきます。
しかしやがてダニエルを知る者と遭遇してしまい、彼の牧師の立場が危うくなっていく、というのがストーリーの流れです。
ダニエルの正体がバレるか、バレないかというせめぎ合いをスリリングに見せていて、ほぼほぼそれが本作の見所の全てといってもいいかもしれません。
それ以外ではダニエルと少女マルタの恋模様や複数の人の命を奪った交通事故の謎などがサイドストーリーとして展開していきます。
そして終盤には少年院時代の院生や自分を面倒見てくれた牧師との遭遇によって主人公の運命が変わっていくんですが、先の見えない面白さと、主人公の危なっかしい行動の数々にハラハラさせられます。
牧師という立場になってもダニエルはなお酒、たばこ、ドラッグを続け、挙句の果てにはマルタと男女の関係にまでなっちゃいます。また、彼は特にそういった煩悩を隠そうとせず、逆に若者たちに溶け込むきっかけにしているようなところすらあり、あんないい加減なことをしても聖職者というステータスがそうさせるのか、村人たちから信頼を得ていきます。
てっきり立場が人を変えていく、という話なのかと思いましたが、ダニエルの場合は牧師になっても全然真面目になりませんでしたね。酒を勧められたら断らないし、喧嘩を売られたらついつい頭突きが出ちゃうし、結局芯は変わらないのも逆に現実味がありました。
ただ、中身がどうとか、経歴がどうとかに関わらず、ミサのときに心を動かすスピーチして、村人たちの悩み相談をさも親身に聞いていたりしたら、案外信者なんて簡単に騙せちゃうのかもしれませんね。ちなみに過去にスペインには18年間牧師と偽っていた男もいたそうです。
そういった嘘とかショーンKとかが大嫌いという人にはダニエルのことが憎くて仕方なくなるでしょう。信仰心の強いキリスト教徒たちもこれを見たら激怒するんでしょうか。なんせダニエルはキリスト教の掟を破りまくりだからね。
逆にそれ以外の視聴者は、ダニエルのことも信者たちのことも興味深く見れるんじゃないでしょうか。あるいは牧師というステータスや権威にすがりつこうとする若者と、そんな若者にまんまと騙されてしまう村人たちのことを滑稽に思っては鼻で笑ってしまうかもしれませんね。そういう意味では人間の愚かさを上手く表現していたように思います。
一方でラストシーンはちょっと意味が分かりませんでした。少女マルタはどこに向かったのか。ダニエルは果たして信仰を捨ててしまったのか。
予想外の終わり方だったし、すごいタイミングでエンドロールが出てくるので、「え?」ってなること間違いなしです。
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