真面目なテーマもダメな奴らが映画にするとギャグになる、という見本。思考停止した人たちが「考えさせられるぅう」とか言い出しそうな怖い作品です。22点(100点満点)
映画人魚の眠る家のあらすじ
播磨薫子と和昌は離婚寸前の夫婦。せめて娘の瑞穂の受験が終わるまで関係を続けようと踏みとどまってきた二人は、受験の面接日に娘がプールで溺れたことを知らされる。
瑞穂はプールの排水溝に指を挟んで抜けなくなり、あろうことか脳死状態に陥ってしまった。
回復の見込みがないと医師に判断され、脳死判定をして臓器を寄付しようと考えた夫婦だったが、脳死判定の直前にかすかに瑞穂の指が動いたことで彼女はまだ生きていると実感し、臓器移植をやめ、延命治療を続けることにする。
やがて自宅治療ができるようになるまで瑞穂の健康状態は良くなるものの、依然として意識は戻らないままだった。そんな彼女に母親の薫子は、ハイテク機器を使って電気信号を送り、体を動かせることに成功する。
しかし薫子は、娘の世話に全てを捧げていく中で次第にエゴをむき出しにして精神を病んでいく。
映画人魚の眠る家のキャスト
- 篠原涼子
- 西島秀俊
- 坂口健太郎
- 川栄李奈
- 山口紗弥加
- 田中哲司
映画人魚の眠る家の感想と評価
「イニシエーション・ラブ」など、駄作を作り続けて30年のキャリアを誇る堤幸彦監督による、シリアスなテーマを意図せずギャグとホラーに仕上げてしまった闘病家族ドラマ。
つまらない小説を書き続ける東野圭吾がデビュー30周年の記念に書いた小説の映画化です。
演技は見るに堪えないし、演出は古いし、絵面はセット丸出しだし、こんなレベルの商品を売っても感動してくれる人がいるんだから、日本の映画市場なんてある意味楽勝ですね。
とにかくダメな邦画の典型的な路線をきっちり走ってますね。ダメな映画のパターンその一、テーマがやたらとでかい。
テーマはずばり、人間は何をもって「死」とするか。脳が機能しなくなったら「死」なのか、それとも心臓が止まったら「死」なのか。
つまり人の死をめぐる人間の尊厳や倫理観を語っちゃおうぜ、描いちゃおうぜ、というもので、おそよ脳死などの問題に直面したことのないアホんだらが想像で面白おかしく描いただけの代物です。
脳死した娘を持つ夫婦が豪邸に住んでいて夫は社長でお金も無尽蔵にあって、治療代のことなんて問題じゃないよってな具合に話が進んでいくのがまずダメですね。
そんでもって夫の会社がIT系機器メーカーで、そこの社員が開発した機械を使うと、脳死した娘の体を動かせるようになって健康状態が向上するってどんだけ都合いいんだよ。
また、社員はプライベートを削って毎晩のように面倒を見に来てくれる、という有様で、ありとあらゆる現実問題をすっ飛ばしてるのがさすがでとしかいいようがないです。
脳死した人のケアにかかる時間的問題、金銭的問題、労働的問題の全てを善意だけで片付けようとしているのが腹立つし、そのうえでモラルや尊厳を語られても困るんですよ。
電気を流せば体が動くっていう下りはもはやコントで、リモコンで腕や顔の表情までコントロールし出したりして、無理やり動かされている娘の姿を見て喜んでる母親とかホラーでしかないです。
あと、セリフがいちいち「誰もそんな状況でそんなこと言わねえよ」なセリフですよね。「あなたが娘を育てるみたいなもんなのよ」っていうのを看病に来た男性社員に言うお母さんもどうかしてれば、「私のほうが娘さんに対して父親らしいことをしてます」って社員本人がお父さんに断言しちゃうところもやばいですね。
クライマックスシーンは、母親が暴走するシーンなのでしょうか。ダメな邦画のパターン、その二。クライマックスでやたらと大声で感情的に話し、視聴者を泣かせようとするものの、実は無茶苦茶なことをしてる。
母親が何をしたかというと、娘に包丁を突き刺そうとして寸前のところで止めておいて、自ら警察を呼んで、「ねえお巡りさん、娘はすでに死んでるんだから私が殺しても罪には問われないでしょ? もし罪に問われるのなら、それは生きてるってことだよね?」という馬鹿な質問をするのでした。
いやいや、それを弁護士とか裁判官とかに聞くならまだしも、ペーペーの警官に聞いてどうすんだよ。「いや、私は医療系の法律のことはそんなに詳しくないので」って言われてお終いじゃん。
普通だったら子供に包丁を突き立ててるんだから、あのバカ女は射殺されないとおかしんですよ。それなのに警官はおろおろするだけで、そこからはお父さんだ、子供だ、友達だが、飛び出してきてのお涙頂戴劇場が始まるのには爆笑するしかなかったです。
それになんで子供を殺そうとしたバカ親があの後、平然と暮らしてるんですか? 逮捕されないの? もっと一つ一つのことちゃんと描こうよ。
ラストは、視聴者を泣かすためになんとなく響きのいいエピソードを詰め込み、それが逆にギャグになっていましたね。
まず、娘が夢の中でお母さんにお別れを言ってきて、その直後に息を引き取ります。命日は息を引き取った日じゃなくて娘がお別れを言った日なんだってさ。
あれだけ「死」に対する細かい定義を法律を引き合いにしながら描いてきたのに最後はスピリチュアルな答えを提示して終わらせるっていう逃げ方すごいな。
挙句の果てには反対だった臓器移植についても「娘もきっとそれを望んでいるはずだから」などと、手のひら返しで認めるのが最高でしたね。
でもそれだけじゃないんですよ。ラストのラストではさらなるオチが待ってました。臓器移植してもらった少年が、導かれるように外を走って行って、家族が住んでいた場所に行くのです。なんてサプライズなんだろう。
最新の臓器移植にはGPSが一緒に搭載されてるのか、臓器提供者の住んでた場所が分かるんだってさ。それも走って数分で行けるところに臓器提供者が住んでたんだから、すごい狭い世界だよね。なんなら心臓を手で持って渡しに行けばよかったじゃん。
あんなに娘の死を受け入れられなかった家族が、死んだらすぐに家を更地にしてるっていうところもシュールですねぇ。お前らは、切り替えが早いのか遅いのかどっちなんだよ。
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