国際映画祭向け、芸術路線、ミニシアター系中国映画。子供は見ちゃいけない、男と女の腐れ縁を描いた物語です。68点(100点満点)
映画「帰れない二人」のあらすじ
山西省大同は鉱山で有名な町だったが、石炭の価格が下落したことによって景気は悪化する一方だった。
そんな場所で地元のマフィアを仕切っている若頭ビンは金と権力を握っていた。彼の恋人チャオもビンの影響力を十分に受け、マフィアの男たちからも一目置かれていた。
不景気ということもあり、チャオはビンに全てを投げ出して結婚しようと持ち掛けていた。ビンはそれを本気にしなかった。
ある日、ビンが兄と慕う初老が不良の若者に刺殺されたのを皮切りに町ではビンの組織を狙ったギャングたちの動きが過激化していった。
やがてビンの車は暴走族に囲まれ、車に乗っていた運転手とビンがリンチに遭ってしまう。その場にいたチャオはビンを守るために銃を発砲。これによってチャオは刑務所送りになる。5年後、刑務所から出るとビンは迎えに来てくれなかった。チャオは、ビンに何があったのかを知るために彼のもとを訪れる。
映画「帰れない二人」のキャスト
- リャオ・ファン
- チャオ・タオ
- フォン・シャオガン
映画「帰れない二人」の感想と評価
カンヌ映画祭に出品された「長江哀歌(エレジー)」、「山河ノスタルジア」、「罪の手ざわり」などで知られる中国の巨匠ジャ・ジャンクー監督による、男女の複雑な関係を描いた人間ドラマ。
芸術性とシュールさを兼ね備えた成功と転落と別れを描いた男と女の物語です。文化、習慣的な違いからか意味不明なところも多々あるけど、それも含めて楽しめる大人の映画で、登場人物の行動と先が読めないストーリーになっています。
地味だし、ややスローだし、エキサイティングな内容にはなっていないものの、魅了されるものがあり、最後まで見てしまいますね。
ジャ・ジャンクー監督はこれまで一貫して中国の田舎町やそこに住む労働者にスポットライトをあてていますが、本作ではヤクザ者を主人公にしていて、多少のバイオレンスが加わったことによって、面白さが増していますね。
メインとなるテーマは、マフィアのボスのビンと、彼の恋人であるチャオの関係性です。しかし二人を描きつつ、変わりゆく中国の景色と状況を哀愁込めて描いていて、ものすごいリアリティーを感じます。
かと思うと、途中でなんだこりゃ、というシュールなエピソードを用意しているのも面白いところです。
そもそも中国の田舎町とかぶっ飛びすぎてて日本人にとってはシュールな出来事ばかりなのかもしれませんね。
葬式で故人のために生前に彼が好きだったダンスを見せるために男女のダンサーが登場して、ペアダンスを踊る、とか面白すぎじゃないですか。それも流れる曲がこれだからね。
ちなみに日本語版カバーはこちら。
この微妙なダサがたまりませんね。
路上ミュージシャンが虎とライオンを連れて、トラックの荷台にバックダンサー乗せて歌を歌ったり、彼らがマジでやっていることが笑えます。
さて、物語は、マフィアのボス、ビンがギャングにリンチされる>彼の恋人チャオが銃で助ける>チャオが刑務所に入れられる>出所するとビンがほかの女を作ってる、というふうに裏切りともいえるような流れになっています。
ただ、さすがに5年間も刑務所に入っていたら結婚してるんだったらまだしもただの恋人が、それもマフィアのボスが待ち続けてくれることを期待するのは無理があるかなあって思いましたね。
それでもチャオは、相手が電話を無視していようと、居留守を使おうと平気でビンの居所を探り、彼に直接会わないと気が済まないといった様子でした。
ビンに会うためなら手段を選ばないところは、だてにマフィアの女をやっていない、という感じで、素晴らしい度胸と根性を見せてもらいました。
客観的に見ると、ただのしつこい女とも言えますが、良く言えば熱い女で、関係を続けるにしても、別れるにしてもはっきりさせないと嫌なタイプなんですね。ちょっと怖いけど。
ビンに振られた後の振る舞いがまたすごかったです。あろうことか、それから十数年後、脳溢血で歩けなくなり、マフィアとしてもやっていけなくなった落ちぶれたビンのことをチャオは引き取り、面倒を見るからです。
現代っ子にあんな中国人女性がいるかどうかは分からないけど、チャオにはちょっと僕には理解できないレベルの義理人情があるみたいで、それがビンに対する愛なのか、哀れみなのかは最後まで分かりませんでした。
もっと理解できなかったのはなぜチャオが長距離列車の中で出会ったUFOの話をする詐欺野郎にノコノコついて行っては、キスだけして彼の元から静かに去っていったのか、ということです。彼女は一体なにがしたかったのか。ビンに振られたばかりで気が動転していたんでしょうか。
たまに現実でも飛行機の中で話しかけてくる、見るからに怪しい外人のおっさんにノコノコついていく一人旅の日本人女性を見かけるんだけど、あれなんでついていくの? 危なくないか?
だいたいそういうおっさんってちょっとした日本語の単語を知っていて、それを一つや二つ言おうもんなら、外国人慣れしてない日本人の旅行者がキャッキャ言って笑うんですよ。カモかよ。
この映画に出てくる、胡散臭いUFO男がまさにそれで、ノコノコついていくチャオが無邪気な旅行者といった感じでしたね。
あの流れからUFOが出てくるシーンは見事でした。あれが意味するものは一体何なのか。意味不明だけど、なんかいいです。「長江哀歌(エレジー)」にも同じようなシーンがあるんですが、シリアスな話にちょこっと入ってくる、ああいう遊び心が好きです。
コメント