ムーンライト(原題MOONLIGHT)

貧困街で厳しい生活を強いられてきた黒人少年が青年から大人になっていく様子を3つのストーリーでつづった衝撃作。映像が独特で、ストーリーに意外性があって新鮮でした。78点(100点満点)

あらすじ

マイアミの貧困地域で暮らす内気な少年シャロンは、学校では「チビ」と呼ばれていじめられ、家庭では麻薬常習者の母親ポーラから育児放棄されていた。そんなシャロンに優しく接してくれるのは、近所に住む麻薬ディーラーのホアン夫妻と、唯一の男友達であるケビンだけ。やがてシャロンは、ケビンに対して友情以上の思いを抱くようになるが、自分が暮らすコミュニティではこの感情が決して受け入れてもらえないことに気づき、誰にも思いを打ち明けられずにいた。そんな中、ある事件が起こり……。

映画ドットコムより


文句

いわゆる黒人映画ですが、従来のギャング、ドラッグ、喧嘩、金といった映画とは一味も二味も違っています。なにを隠そうこれは黒人版「ブロークバック・マウンテン」ともいえる同性愛の物語だからです。

なんの予備知識もなく見たため、いい意味でサプライズを受けました。そういえば今まで同性愛映画といえば白人と決まっていましたよね。それがこの映画はごつい黒人の男たちによるせつなくて悲しい、人生と愛のストーリーに仕上がっているのです。

物語の主人公は、体の小さな少年シャロンです。シャロンはみんなから「リトル」と呼ばれ、気が弱いことからいじめの絶好のターゲットにされます。

そんなシャロンを見かねた男がある日、シャロンを助け、彼の面倒を見ようとするものの、シャロンは人から優しくされてもなかなか心を開かず、いつも下向き、ほとんど言葉を交わそうとしません。

それもそのはずシャロンの唯一の家族である母親は麻薬中毒で、彼のことを真剣に気にかけてくれる人はこの世に一人もいないからです。

ティーネイジャーになってもシャロンに対するいじめは続きます。同級生からことあるごとに因縁をつけられる彼のことを唯一友達として扱ってくれたのがケビンで、シャロンは唯一の心の拠り所である彼に対して、恋愛感情を抱いていく、というのがストーリーの流れです。

強くて勇敢で危険をかえりみない男ではなく、華奢で、おどおどした、いじめられっ子を主人公にしているあたりが黒人映画においては大変珍しいですね。コメディーならまだしもシリアスなストリートの世界を描いた映画ではなおさらのことで、さらにその主人公が同性愛に傾いていく、という展開に作り手のセンスが伺えます。

暴力が支配する世界においては男たちは常にタフを演じなくてはならず、そこにはステレオタイプな男性像が常につきまといます。黒人社会においてもそれは顕著で、男らしく生きることへの主人公の葛藤が見え隠れするのがいいです。

シャロンはストリートで生き延びるために必死で体を鍛え抜き、やがてイメージ通りのタフな男になります。しかしそんな彼が唯一心を許せたのは先にも後にも学生時代の男友達だった、という状況がなんともせつなかったですね。

シャロンにとってあれは恋だったんでしょうか。それとも恋愛を超えた、他人と築いた唯一の強い絆だったのか。果たして彼はゲイなんでしょうか。そうとも言えるし、違うとも言えそうです。

母親を憎み、自分の環境を恨んだシャロンに必要だったのは誰でもいいから信用できる人間です。それが男であろうと、女であろうともはや関係なかったのかもしれませんね。

すっかり大人になったシャロンとケビンはレストランで再会を果たします。そこからのシーンの緊張感といったらないです。これから一体何が始まるのか。お互いの勘違いや精神状態によってはどっちかがキレだしてもおかしくないし、あるいは大男たちによる激しい絡みが始まる可能性もあります。それがあんなことになろうとは。

なんで同性愛のシーンでストレートの自分がこんなにハラハラしなくちゃいけないんだろう、と思う人はきっと僕だけじゃないはずです。それだけ話に引き込まれるリアルな作品でした。

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