
プロットの良さを自ら潰してしまっている惜しいイラン映画。海外で謎に評価が高い作品です。31点
シンプル・アクシデント偶然のあらすじ
ある晩、義足の男が、妻と娘を乗せて夜道を車で走っていた。その途中、誤って犬を轢き殺してしまう。まもなくして車が故障し、道路で立ち往生する。家族は近くの修理工場に立ち寄るが、そこで働くアゼルバイジャン系イラン人の整備士ワヒドは、男の義足がきしむ音を聞き、彼がかつてイランの刑務所で自分を拷問した男だと気づく。
翌日、ワヒドはその男を尾行し、誘拐して砂漠へ連れて行き、生き埋めにしようとする。ワヒドは、男の声や足を引きずる歩き方から、彼が刑務所時代の拷問官エグバル(通称「木脚」)だと確信していた。しかし男は、自分はエグバルではないと否定し、「足の傷は最近できたもので古い傷ではない」と訴え、命乞いをする。
男の正体に確信が持てなくなったワヒドは、気絶した男をバンに積み、本屋で働くサラールを訪ねる。サラールは男の身元確認への協力を拒むが、代わりに同じく拷問を受けた過去を持つシヴァという女性写真家を紹介する。シヴァはその時、翌日に結婚式を控えたゴリとアリという婚約中のカップルの写真撮影をしていた。
最初は協力を渋っていたシヴァだったが、男の体臭を嗅いで、それがエグバルの匂いだと思い出す。しかし、拷問や尋問の際には常に目隠しをされていたため、彼女も確信を持てなかった。するとゴリが、自分もエグバルに拷問されたことがあると明かすが、やはり本人かどうか断定はできない。そこで彼らは、シヴァの元恋人ハミドに協力を求めることにする。その前に、捕らえた男に薬を飲ませ、耳栓をして会話が聞こえないようにした。
ハミドは男の足に触れただけで、即座に「こいつはエグバルだ」と断言し、その場で殺そうとする。しかしワヒドとシヴァは、「まず本人に証言させたい」と考え、ハミドを止めるのだった。
シンプル・アクシデント偶然のキャスト

- ワヒド・モバシェリ
- マルヤム・アフシャリ
- エブラヒム・アジジ
- ハディス・パクバテン
- マジッド・パナヒ
シンプル・アクシデント偶然の感想と評価

「熊は、いない」、「人生タクシー」、「ある女優の不在」などで知られるジャファル・パナヒ監督による復讐ドラマ。カンヌ国際映画祭パルムドール受賞作品です。
かつてイラン当局に捕まって拷問された人々が、自分たちを拷問した義足の男を見つけ、そいつが本人かどうか、殺すかどうかを延々とディスカッションしていくダラダラ映画です。
イラン政府の闇を紹介しつつ、義足の男が本人かどうかを謎にするという設定はいいし、拷問を受けた人々は目隠しをされていたから、声と義足の音しか覚えていないというアイデアも面白いんだけど、登場人物たちから緊張感が伝わらず、あまりにも口論のシーンが長くて途中から滑稽になっていくのが残念でした。
まず、主人公のワヒドが、自分の整備工場にやってきた義足の男の足音を聞いてすぐに「この音は俺を拷問した男の歩く音だ」とピンと来るシーンから本題に入っていき、男を誘拐し、生き埋めにしようと試みるも確信が持てないため、伝手を頼って被害者たちを集め、男の身元を確認しようとする、というのがおおよその話の流れです。
どの被害者たちも、男が拷問を担当した人物の可能性が高いことを知ると憤慨し、殺意をむき出しにするんですが、その割にはああでもないこうでもないという会話を繰り広げるだけで、殺すのか殺さないのかはっきりしないんですよ。え、もしかしてこれずっとこんな感じで引っ張るの?と思ったら案の定そうでした。
そしてみんながディスカッションしている間、義足の男は都合良く気絶しているという設定があまりにも嘘っぽく、また気絶している間、バンの荷台の木箱の中に閉じ込められるんですが、その木箱が小さすぎて、絶対酸欠になるじゃんっていう疑問が拭えませんでした。
挙句の果てには、義足の男に娘から電話がかかってきて、なぜかその電話に出てしまい、出産間近の義足の男の妻を助けに行くという意味不明な展開になり、復讐ドラマがヒューマンドラマに変わっていくんですよ。あの路線変更が嫌でしたね。さっきまでシャベルで人の頭を平気で殴っていたやつが、急に深い慈悲を見せだすっていうね。一生を棒に振るリスクを冒して拉致監禁までしたのに、登場人物たちが次々と日和っていく姿にはがっかりしましたね。
この映画がサスペンススリラーなのだとしたら復讐を果たすこと以外、人間の持つ恐ろしさを表現する方法はないと思うんですよ。
それを「俺たちは、お前のような奴とは違うんだぞ。人を殺めるような酷いことなんてやらないんだぞ」みたいな話になっていくのは意味不明でした。そんな甘ったるい考えなら最初からやるなよって。
人間って音とか声とか臭いとかの記憶ってどれくらい脳に残るものなんでしょうかね。盲目の人にとってはそれ以外に手段がないから、それらが記憶としてはっきり刻まれるのは分かるけど、目が見える人が目隠しをされた状態のときに起こった出来事をどれくらい記憶できるものなんでしょうかね。登場人物たちはやれ音が同じだ、やれ臭いが同じだって言ってたけど、そんなの覚えてる? 特徴的だったのは足音だけだよね。
元囚人たちの連携が良すぎるのも笑えました。あんなに急に集まって誘拐に手を染めちゃって大丈夫なの? それも翌日に結婚を控えている新郎新婦まで結婚式そっちのけになってんじゃん。そんな大事なイベントを投げ捨てるぐらいのノリだったのになんでフェードアウトしていくんだよ。
義足の男が自白したのもなんなんでしょうかね。あれは最後まで言わないで、復讐を果たした後に、果たしてあいつは本当に本人だったのだろうかという余韻を残したほうが恐ろしさがあってよかったですよね。被害者たちにとってはもはや男が本人かどうかは関係ない。復讐を果たすことが目的だったという流れのほうがまとまっていたのでしょう。
あと、政府の元拷問官クラスの男だったら誘拐された時点で大騒ぎになってるだろって話ですよね。妻は警察に通報してないんですか? 出産でそれどころじゃなかったってこと?
ラストはどう解釈したらいいんでしょうか。本当に男が復讐しにやってきたのか。それともあの音がトラウマになっていて時々幻聴のように聞こえるのか。まあどっちでもいいかな。恐怖の要素を排除した後にあのラストを見せられてもいまさらゾっとしないって。なんか最後までもったいない映画でしたね。


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