これこそ密着ドキュメンタリーともいうべき、感情移入しまくりの映画。まるでこれから自分がスタジアムでコンサートを開くかのような緊張感が得られます。66点
J・バルヴィン・メデジンから来た男のあらすじ
レゲトンで世界的に大成功を収めた歌手J・バルヴィンは故郷のコロンビア、メデジンでサッカースタジアムで特大イベントを企画していた。
サッカースタジアムでソロコンサートをすることはデビュー当時からJ・バルヴィンが夢見続けてきたことだった。
ところがコンサートが目前に迫る中、コロンビアでは過去最大級の大規模反政府デモが勃発する。何百万人という人々がストリートに出て、声を挙げたが、その声は一向に政府に届かなかった。やがてデモ参加者は暴徒化し、警察と衝突するようになる。
そんな中、コロンビアを代表するJ・バルヴィンは沈黙を保っていたが、自分の立場を何も発言しないJ・バルヴィンに対し、一部のファンや国民は怒りを覚えるようになっていく。
J・バルヴィン・メデジンから来た男のキャスト
- J・バルヴィン
- ニコル・ロメロ
- リック・カセレス
- イバン・アラルコル
J・バルヴィン・メデジンから来た男の感想と評価
「カルテル・ランド」、「プライベート・ウォー」のマシュー・ハイネマン監督による、レゲトンの人気ミュージシャン、J・バルヴィンを追ったドキュメンタリー。
15年越しの夢の実現をかけたビッグイベント開催前の歌手の心境をつづった記録映画で、有名アーティストとして国を代表することが、一人の人間としてどれだけのプレッシャーを受け、どういう精神状態に追い込まれるのかをつづった面白い作品です。
J・バルヴィンを知らない人でもこの曲は聞いたことがあるんじゃないでしょうか。
僕はレゲトン自体、そこまでファンというわけでもないし、J・バルヴィンの名前もどこかで聞いたことがある程度だったんですが、それでも十分に楽しめました。
こんなダンスミュージックを作ってるぐらいだからさぞかし、J・バルヴィンもイケイケノリノリオラオラ系のミュージシャンなんだろうと思っていたら、内面はとても繊細で真面目で謙虚だったのが意外で、まずJ・バルヴィンの人間性に惹かれていきます。それこそが本作の最大の見どころといっていいかもしれませんね。
J・バルヴィンはかつて麻薬王パブロ・エスコバルが牛耳っていたメデジン出身で、そこでお金持ちでも貧乏でもない中流階級の子供として育ちます。
やがてミュージシャンを夢見てアメリカに行きますが、そこではペンキ屋などのバイトをしながら売れっ子、金持ちミュージシャン風に自分を偽って生きていたそうです。そのとき精神を病んで、うつ病になり、夢破れてコロンビアに帰ります。
ただ、ミュージシャンになる夢を諦めきれなかった彼はコロンビアで出直し、ストリートでライブをするなど積極的に音楽活動に励み、やがて地元のメデジンで頭角を現します。
そこからJ・バルヴィンの声は世界へと届いていくようになり、アメリカでスペイン語の曲が異例のヒットを遂げると、知名度は世界的なものになったのでした。
そんなJ・バルヴィンが地元に凱旋し、サッカースタジアムでソロコンサートを開くことになるんですが、タイミング悪く政治が不安的な時期と重なり、ほかのイベントが次々とキャンセルになっていく中、彼はなんとしてでも自分の夢であるコンサートを開催させようとする、というのがストーリーの流れです。
ほぼほぼJ・バルヴィンの苦悩にフォーカスしていて、金持ち自慢とか、パーティー三昧な生活とか、女遊びやドラッグをしている姿は皆無です。
それどころかJ・バルヴィンがうつ病、パニック障害などを抱えていることをカメラの前で包み隠さず告白し、不安や恐怖と日々向き合っていく様子を赤裸々に見せていて、その姿は有名人というより、一人の人間の姿そのもので、夢を実現する一方で多大な犠牲を払っていることが伝わってきます。
つまるところミュージシャンに憧れを抱くような内容ではなく、きついなあ、大変だなあ、としか思わないような内容になっていました。それが逆にいいですね。
特にどこに行ってもサインや写真を求められる日々はきついですねぇ。スポーツジムに汗を流しにいけば入口に人だかりができ、ファンの動画に出演させられ、運動中に写真を撮られ、J・バルヴィンのサービス精神も尋常じゃないので、そんな人たちに毎回笑顔で接します。そりゃああんなこと一日中してたら病むよね。
日本だと有名人が政治的発言をするのは反感を買われるのに対し、コロンビアだと逆に発言しないと批判の的になるのは文化の違いとして興味深いです。影響力があるのになんでお前はなにも言わないんだって怒られるんだから。
国民のヒーローやアイドルでありつづけなければならないプレッシャーに耐えるために、スピリチュアルカウンセラーがいるっていうのも面白いですね。日本だったら洗脳とかすぐ言われちゃいそうだけど、もう精神世界に入るしかないぐらいの境地だからね。
怖いよ、怖いよ、とか言いながら様々な逆境を乗り越えてスタジアムの舞台に乗り込んでいくJ・バルヴィンの後ろ姿にはグッとくるものがあるし、応援したくなってきます。しかしいざ舞台に立つとしっかりスイッチ入れて、切り替えるんだからすごいよなあ。本作を鑑賞し終えるまでにはすっかり彼のファンになっているんじゃないでしょうか。僕はなりましたね。
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