壊された5つのカメラ(原題 5 Broken Cameras)

5_Broken_Cameras

58点(100点満点)

ストーリー

2005年2月、パレスチナ・ビリン村で農業を営むイマードは、四男ジブリールの誕生に合わせて最初のカメラを手に入れる。ビリン村では分離壁が村の中央を通り、耕作地の半分以上が奪われることが判明する。村民は金曜日の礼拝後に穏やかなデモを始め、イマードはデモを撮影する。イマードの友人アディーブとフィールもデモに参加する。軍は人々を逮捕し始め、イマードのカメラも兵士たちに撃たれて壊される。イマードは友人のユダヤ人カメラマン・イスラーイルから2台目のカメラを譲り受ける。フィールの弟ダベアが建設現場のクレーンに登り、それをイマードは撮影する。ダベアは逮捕され、イマードのカメラは壊される。イマードは新しいカメラを購入し、3歳になったジブリールをデモに連れて行く。ある日、イマードは弟がジープで連行される様子を撮影する。その夜、兵士たちはデモで石を投げたとして子供たちを逮捕する。別の日、イマードの自宅に兵士が現れ、その様子をイマードは撮影する。連行されたイマードは数週間拘留された後、ビリン村から離れた場所で軟禁される。証拠不十分で解放されると、妻ソライヤは撮影をやめるよう懇願するがイマードは撮影を続け、3台目のカメラも撃たれる。2008年までに多くの村でも分離壁が侵入するようになり、デモが始まる。ビリン村は裁判に勝ち、より入植地に近い場所に壁を移すという決定が下されるが、一向に実行されない。イマードはトラックを運転していて分離壁にぶつかる。それが4台目のカメラの最後の映像だった。イスラエルの病院で20日間昏睡状態に陥ったイマードは、何の支援も受けられず、二度と肉体労働はできないと宣告される。デモが始まって4年、暴力は激化し、フィールが胸にガス弾を受け即死する。フィールの葬儀後のデモでアディーブが逮捕・投獄される。イマードも逮捕状を受け取るがデモの撮影に行き、カメラを撃たれる。2010年、イスラエルは古い壁を撤去し、入植地の近くに壁をつくり始める。

文句

今年のアカデミー賞ドキュメンタリー部門のノミネート作品。傍若無人なイスラエル軍の侵攻に徹底して非武装抵抗を続けるビリンの村民たちを追ったドキュメンタリー。いわゆる政治映画だけれど、ニュース番組を見たり、新聞で読んだりするより、パレスチナ人の実情が直接伝わってくる貴重な記録。

軍の圧力にも屈せずに老若男女問わず村民が命がけで自分たちの生まれ育った土地を守ろうとする気迫がすさまじい一方で土地に対しての観念が違う余所の国の人には理解しがたい一面かもしれません。僕もなんの執着もなく日本を離れブラジルに住んでいることもあり、あそこまで自分の生まれた土地に愛着を感じることはまずありません。今いるところに外国の軍隊が入ってきて、出て行けと言われたら、はい分かりましたといって素直に立ち命令に退きに応じてしまうでしょう。なにも命をかけて戦うほど、その場所にいることに意味があるのか、と思ってしまうのです。しかし自由に海外を行き来できる恵まれた日本人と違って他に行く当てのないパレスチナ人にとっての土地はやはり唯一無二の故郷であり、失うことのできないアイデンティティーなのでしょう。子供のときから徹底してその考え方を叩き込まれ、命を張ってきた家族の後姿を見ていれば、自分だけ戦いたくないとは思わない、もしくは思えないはずです。住民が皆一丸となって一つの目標に向かっているその状態がまさしく戦争状態なわけで、武器を持つ持たないに関わらず、知らぬうちに戦いに参加させられているところが悲しいですね。

それにしてもイスラエル軍のデモ隊に対する容赦ない姿勢は衝撃的でした。邪魔されたり、言うこと聞かなかったら即武力行使。相手には有無を言わさない。映像ではデモに参加した人が殴られる瞬間、足を撃たれる瞬間、そして射殺される瞬間も写っていました。国際社会だ、法治国家だなんだ言っても結局は武力が強い国がルールを決め、やりたい放題するのは昔も今もこの先も変わらないでしょう。やる側かやられる側になるかのどちらかの話で、日本も今のままだと諸外国に侵攻されていつの間にか壁を作られてた、なんてことになりかねないです。

ただ、イスラエルのように国際ルールを破ろうが、近隣諸国に敵対視されようが、テロの標的になろうが、全く意に介さないというなりふり構わず我が道を突き進めるのはある意味すごいですね。北朝鮮とかもそうですが最初から外国と仲良くする気も持たなければ、変に気を使わなくてもいいし、とても楽なんじゃないのかという気もします。クラスに一人や二人は必ずいる男子に好かれるのを諦めた女子生徒みたいな雰囲気がありますね。ぶくぶくに太っても関係なし。言葉遣いも気にしない。男とでも平気で殴り合ったりするからね、そういう子は。

ちょっと脱線しました。さてこの映画はアカデミー賞を始め、海外でも数々の賞を受賞したり、ノミネートしたりしたせいか、この映画を巡って奇妙な名誉欲がうごめいているようです。イスラエル軍を批判したとも取れる内容ですが、監督の一人がイスラエル人ということもあり、アメリカのイスラエル大使館はこの映画を「イスラエル映画」として紹介しているそうです。自分たちの軍隊は批判されてもアカデミー賞はもらっておきたいな、ということなんでしょうか理解に苦しみます。

映画自体はイスラエル軍の悪さばかりを映している一方で、ビリン村のデモ隊の中に少数イスラエル人が参加しているのが分かります。すでに述べたように監督の一人もイスラエル人だし、イスラエルの人がみんなイスラエル軍の行動に賛成しているかというとそうではないのです。ほとんどその辺のところには触れていないので分かりにくい部分ではありますが、デモ隊にイスラエル人の姿を見かけたことが大きな救いでした。