存在のない子供たちは重いけどいい映画!感想とネタバレ

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少年の目線を通じて、これでもかというぐらい貧困と絶望を見せつけられる芸術路線の大人向け映画。売れる作品じゃないけど、質は非常に高いです。77点(100点満点)

存在のない子供たちのあらすじ

貧困の中、少年が両親を訴えたのは「僕を産んだ罪」/映画『存在のない子供たち』予告編

少年ゼインは人を刺した罪で5年の実刑を受け、刑務所で暮らしていた。そんな彼は刑務所から両親を告訴し、裁判に出頭する。そこでゼインは両親を訴えた理由を裁判官から聞かれ、「自分を産んだから」と答える。

ゼインの両親は貧困の末、子供たちに食べるものもろくに与えられない生活を強いられていた。子供たちが学校に行くのも反対し、幼い彼らを小銭を稼ぐために道で働かせた。

そんな状況なのに両親の間に子供の数は増えるばかりで負のスパイラルから抜け出せなくなっていた。

ゼインが逮捕される数か月前、ゼインは妹のサハールを連れて家出をしようと計画していた。サハールに生理が来てしまったことからお金のために年上の男と結婚されられる恐れがあったからだ。

しかし計画はあえなく失敗し、両親はサハールをほかの家族に売り飛ばしてしまう。これに激怒したゼインは一人で家を出てバスに乗って遊園地にまでたどり着く。

ゼインはそこで知り合ったエチオピア人のラヒルと仲良くなり、彼女の家に転がり込むようになる。

その日からゼインはラヒルの赤ん坊ヨナスの子守りをすることになったはいいが、ある日突然ラヒルが家に帰って来なくなり、状況は一転する。

存在のない子供たちのキャスト

  • ゼイン・アル・ラフィーア
  • ヨルダノス・シフェラウ
  • ボルワティフ・トレジャー・バンコレ
  • カウサル・アル・ハッダード
  • ファーディー・カーメル・ユーセフ

存在のない子供たちの感想と評価

「キャラメル」のナディーン・ラバキー監督による、レバノンの貧困家庭に生まれた少年の末路を描いた、ただただ悲しくてヘビーな物語。2019年のアカデミー賞外国語映画部門のノミネート作品です。

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出生証明書すら持っていない12歳ぐらいの少年が家を飛び出し、レバノンで生きるために悪戦苦闘する姿を描いた人間ドラマで、リアリティーがありすぎてドキュメンタリーにしか見えなかったです。

楽しい映画じゃないし、エンタメ性は低いし、重苦しい内容なので、映画=娯楽と考えている人には向かないでしょう。

一方で芸術性や圧倒されるストーリーとパフォーマンスに触れることができるので、心は滅入っても、上質な映画を体験したい人にとっては見る価値のある作品だと思います。

物語は、男を刺して服役している少年ゼインが裁判所で証言するところからスタートします。彼は両親に強い恨みを抱え、子供だというのに堂々と自分の訴えを裁判官に主張するのでした。

その訴えというのが、ずばり「育てる気がねえのに子供(自分)を産むんじゃねえよ」というものです。

そしてそこからはゼインの過去を振り返る形でストーリーは進んでいきます。ゼインは一番仲の良かった妹がお金のために政略結婚させられたことを機に家出をし、レバノンに不法滞在しているエチオピア人女性と暮らし始め、彼女の子供の世話をしながら、物を売ったりして、なんとか生き延びていきます。

その姿は健気で逞しく映ると同時に同情を誘うこと間違いなしで、逃げ場のない劣悪な環境に追い込まれる子供の心境を考えると涙せずにはいられなくなる人もいるはずです。

食べるもにも困っているゼインがアイデアと行動力だけでその場をしのいでいく一連のシーンは、人間の知能や可能性を感じさせるものがありますね。

赤ん坊をあやすために近所の家のテレビを鏡で映したり、鎮痛剤トラマドールを水に薄めてドラッグとして売りさばいたり、シリア人になりすまして救援物資をもらったり、ありとあらゆる手段を使ってその日を生き延びようとするのがすごいです。そこにはモラルとか正義とか介入する隙間などないのが伝わってきます。

エチオピア人の赤ちゃんの世話をしているゼインは、お兄ちゃんそのもので苦しい状況でも赤ん坊に対して彼が見せる態度は家族愛のようにも、父性のようにも映っていて不思議でした。

自分の両親からゴミのような扱いを受けてきた少年が、赤の他人の赤ん坊にあそこまで入れ込むことができるところにも人間性を感じますね。

ストーリーはインパクト十分だし、演出、演技も素晴らしかったです。ちなみにゼインを演じた少年はゼイン・アル・ラフィーアは俳優ではなく、ベイルートのスラム街で生まれ、育った普通の少年だそうです。

役名がゼインなのは彼の本名から来ていて、ヘビーなバックグランドを持つ彼だからこそ、あそこまでのリアリティーが出せたに違いないです。

セインだけでなく、ほかの出演者も素晴らしいですね。本物にしか見えないもん。エチオピア人の赤ん坊まではさすがに演技できないだろうけど、使い方がすごい上手ですね。

赤ん坊の足に紐を括り付けつけるシーンとかフィクションとはいえ絶対日本じゃできないだろうなぁ。

それに対して前半は説明不足なところもあり、現在と過去の切り替えが分かりにくく、ストーリーに入っていくまでに多少の時間を要しました。この映画の場合、時系列で表現しても問題なかったようにも思うけど、どうなんだろう。

いずれにしても素晴らしい映画でした。やはりアカデミー賞外国語映画にノミネートされる作品ってレベル高いですね。

コメント

  1. ベゼリエ より:

    リクエストしたいと思っていたのですが、こんな娯楽性のかけらもない映画、見る術があるのかと躊躇していました。今年のアカデミー賞にノミネートされていたんですね。まったく知りませんでした。取り上げていただいて大変うれしいです。

    私はイスラム圏で暮らしているので、この映画はかなりのロングラン(商業ベースでの上映でなく、アート系のシネコンでですが)になりました。町中にはシリア難民もよく見かけますし、共感する人が多かったようです。ただ、元凶は戦争や貧困にあり、日本の終戦直後も似たような状況があったのではないでしょうか。

    ゼインのたくましさ、両親の愚かさ、弱者同士の助け合いなど、とても心に響きました。ここで取り上げていただいたことで、1人でも多くの人に見てもらえたらと思います。

    • 映画男 映画男 より:

      日本公開する映画だったら、芸術路線の映画でもリクエストしていただいて大丈夫ですよ。イスラム圏で暮らしているなら、また違った目線でこの映画を見れそうですね。イスラム圏でも海外でも評価されたのなら、やはり本物なんでしょうね。