2016/08/24

草原の実験(原題 ISPYTANIE/TEST)

elena

近代的な社会とは無縁な僻地に暮らす少女と父親、そして彼女に一目惚れした二人の男の子の恋の行方を描いた、芸術路線の大人向け人間ドラマ。エキゾチックな風貌を持つ主人公の少女が、思春期のなんともいえない危険な魅力を放っていて、男ならドキっとすること間違いなしの一本。90点(100点満点)

あらすじ

少女(エレーナ・アン)は、心地よい風が吹き渡る草原にぽつんと立つ家で父親と2人で生活していた。仕事に出て行く父を見送った彼女は、スクラップブックを眺めたり、トラックの荷台を掃除したりしながら時を過ごす。そんな美しい彼女に地元の少年や、風来坊の少年が好意を抱き……。

シネマトゥディより


文句

映像よし、ストーリーよし、演技よし、音楽よし、演出よし。そしてなによりキャスティングが素晴らしい名作です。この映画は、主役の少女役に韓国人とロシア人のハーフであるエレーナ・アンを起用した時点ですでに勝負あった、という感じがしますね。

なんでしょうかね、出身地、年齢、信仰、趣味、好み、性格の全てが不詳といった彼女のあの独特の雰囲気は。あるときはすごく東洋人っぽく、またあるときは白人そのもので、またあるときは他人思いで優しく、またあるときは人を近づかせないような冷たさを見せたり、どうにも掴みどころのないキャラがはまりまくってました。おそらくあのオーラは同じ女優を起用したとしても今後二度と出せないと思います。

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撮影当時、エレーナ・アンは14歳だったそうですが、監督はあえて少女でもなければ、大人でもない微妙な年齢の女優を探してキャスティングしたそうです。まさにこれから大人になろうとしている少女は、ときおり成人男性をもビクッとさせるような「女」の表情をしたりしますが、おそらく監督もその瞬間を撮りたかったんじゃないかなあと思います。その意味では大成功してますね。

劇中、物語の舞台(カザフスタンがモデルだそうです)や登場人物の背景は一切語られていません。それもそのはずセリフが一切ないからです。セリフなしの映画は最近でも「メビウス」や「ザ・トライブ」といったよう作品がありましたが、作品の良し悪しがはっきりするタイプの映画ですね。ごまかしが効かないから監督の手腕がもろに出てしまい、視聴者に集中力を保たせるのも難しいはずです。

僕がこの映画を退屈せずに鑑賞できたのは、圧倒的な映像美と、おそらくこの先も一生行くことのないだろう土地の生活に対する好奇心が要因です。かといってそれだけかといえばそうじゃなく、ストーリーもしっかりしていて可愛くもあり、ロマンチックでもあり、衝撃的でもあり、なにより人間味があって、優しい気持ちにさせられました。

撮影方法もこだわりを感じさせます。クレーンを使って撮影したのか、かなり高い位置からトラックを頭上から撮るシーンもよかったし、父親の頭から朝日を照らすシーンなんかは緻密な計算による演出のような感じがして、唸ってしまいました。

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名シーンもたくさんありますね。少女がお父さんに対して見せる思い遣りの数々のシーンはぐっときました。お父さんの足を洗ってあげて、靴下を履かせてあげる娘なんて今の世の中にいますか? お父さんが壁にもたれかかって居眠りしているところを、頭を起こして枕を置いてあげるなんてことしますか?

酔っ払って帰って来たら靴を脱がしてあげて、寝かしてあげてましたね。ああいったことはたとえ娘がお父さんに対してじゃなくても、大人の女が男にやってもおそらくほとんどの男は惚れてしまうでしょう。あれを自然にこなす女って恐ろしいな。

そうそう、少女をめぐって大草原で殴り合う少年たちのひたむきさもよかったです。まさに二匹の雄が雌と交尾するために、有無を言わずして戦う場面じゃないですか。当然のごとくそれを黙って見てる少女。現代の恋愛では到底見られないような三人の純粋さがいいですね。

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一番の名シーンはやっぱり金髪の少年が少女の写真を撮って、後日暗闇の中で壁にスライド写真を映写するシーンです。おそらく少女はあれでコロッといってしまったのでしょう。そうとしか考えられません。

電気も水道もないような土地で「写真」というハイテク技術を使って、ロマンを演出するという一見キザで卑怯な方法ではありますが、ああいうのが女は好きなんだろうなあ。もしかするとあれは現代でも通じる方法かもしれません。僕の家にもプロジェクターがあるので、今度ド田舎にでも行って試してみようかなぁ。

「見てみて、ほらあそこの壁に君の顔が写ってるよ」

「ちょっと、恥ずかしいからマジやめてくれなーい。うざいんですけど」

おそらく現実はこんなもんでしょう。ただ、男なら一度はやってみるだけの価値はありそうです。

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