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ユー・キャン・シー・エブリシングは天才になり損ねた女の恋愛ドラマ

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頭いかれた女、男が大好きだという人向けの潜入ドキュメンタリー映画。洗脳なのか、天性のものなのか、はたまたただの病気なのかはっきりしないものの、奇妙な人物の姿がのぞける良質の作品です。70点

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ユー・キャン・シー・エブリシングのあらすじ

2023年、エリザベスが自らの会社セラノスを通じて投資家を欺いた罪で、11年間の刑期に服するため刑務所に収監される34日前、彼女とパートナーのビリーは、映画監督のネイサンとランスを招き、カリフォルニア州デルマーに借りたビーチハウスでの生活を撮影させる。

監督たちは2人の私生活にまで深く入り込むことを許されていたが、ネイサンは2人が何かを隠しているのではないかと疑い始める。ネイサンが、セラノスの欠陥のある血液検査装置をどのように宣伝していたのかエリザベスに問いただすと、彼女は装置の性能について意図的に人々を誤解させたことはないと否定し、自分の発言が言葉の意味を誤って解釈されたのだと主張する。エリザベスとビリーは、新型装置の売り込みのため、投資家候補に電話をかける。

ネイサンは、エリザベスとの意思疎通に苦労していることを示すため、アボットとコステロのコント「Who’s on First?」を2人に見せる。エリザベスは面白いと答えるが、ネイサンに詳しく尋ねられると、ジョークの意味が分からないと主張する。ビリーは、エリザベスの反応は彼女が「人とは違う考え方をする」ことの表れだと説明する。

その後、ネイサンは女優アマンダ・サイフリッドがエリザベスを演じたミニシリーズ『The Dropout』を2人に見せる。しかし、エリザベスは動揺し、途中で視聴をやめるよう求める。

収監される直前、エリザベスは自身の身体を3Dスキャンさせ、自分の容姿が悪用されることを懸念する。その後、エリザベスは刑期を開始するため、テキサス州ブライアンにある連邦刑務所キャンプに出頭する。ビリーと2人の子どもたちは、彼女の近くで暮らすため、テキサス州に移住する。

それから2年後、撮影が再開される。ネイサンは、ビリーが新会社ヘーマンサス(Haemanthus)を立ち上げる様子を追う。ビリーの支配的な振る舞いは、ネイサンに懸念を抱かせる。ビリーはネイサンが刑務所にいるエリザベスと話すことを拒み、エリザベスの肖像を看板広告やディープフェイク技術を使ったAIモデルに使用するライセンス契約を結ぶ。また、セラノスの技術についてエリザベスが嘘をついていた可能性を示唆するヘーマンサスの技術者へのインタビューも打ち切ってしまう。

ネイサンは刑務所内に撮影機材を持ち込み、エリザベスにインタビューしたいと申し出るが、ビリーはそれは不可能だと主張する。そこでネイサンはアマンダと会い、撮影できなかった出来事を再現するため、彼女に再びエリザベスを演じてもらうことにするのだった。

ユー・キャン・シー・エブリシングのキャスト

  • エリザベス・ホームズ
  • ビリー・エバンス
  • ネイサン・フィールダー
  • アマンダ・サイフリッド

ユー・キャン・シー・エブリシングの感想と評価

ネイサン・フィールダーとランス・オッペンハイム監督による、医療機器メーカー、セラノスのCEOエリザベス・ホームズを追ったドキュメンタリー。わずか数滴の血液だけであらゆる検査を安くできると豪語して詐欺罪で有罪判決を受け、11年の刑期を受けたエリザベスを監督が冷静かつ皮肉を込めてインタビューする興味深い内容で、かなり優秀な記録映画です。

矛盾のように聞こえるかもしれませんが、優秀なドキュメンタリーってドキュメンタリーっぽくないんですよね。本作も同じで、まるで脚本があるフィクションのような作りになっていて、ドキュメンタリーに見えないんですよ。それだけ映像、カメラワーク、編集、構成が優れていて、ただ固定カメラを置いて、話を聞くだけじゃなくちゃんと芸術性が感じられる作りになっていました。

エリザベス・ホームズといえば、ネクスト・スティーブ・ジョブスだ、最年少女性ビリオネアだともてはやされ、天才若手起業家として散々絶賛されていた人物ですが、蓋を開けて見たらただのホラ吹きで、みんな彼女の妄想に騙されていた、というオチが待っていました。

そして彼女がどれだけやばい思い込み、妄想癖、虚言癖があるのかというのを上手に見せているのがこの映画で、特に監督のインタビュー技術が光っていました。もう自分だったら、イライラしてぶち切れてるだろうなって言うところを彼は感情を押し殺して、なおかつ視聴者が聞きたいであろう質問をストレートにやんわりとぶつけていきます。質問の仕方、話し方、エリザベスの扱い方がうまいから関係性を壊すことなく、話を進められるわけで、あれは正真正銘の技術だよなあと感じさせられます。

ただ数時間話しただけのインタビューではなく、ときには家に住み込んで生活を共にし、信頼を得たうえでのインタビューだから、かなりエリザベスの素顔に触れることができたんじゃないでしょうか。

エリザベスの何が怖いって、自分がした犯罪に対する認識がゼロだということと、裁判で完全敗北を喫し、11年以上の刑期を言い渡されているにも関わらず、なにも悪いことはしていないという自己肯定感100%の思い上がりぶりが病的で、人々の血液検査してる前に、お前の精神鑑定しておけよって思いましたね。

でもたまにいますよね、こういう人。思い込み、信念が強すぎて、自己否定ができず、事実を認識できず、意図してか、あるいは意図せず人を騙していくみたいな人。いわゆるナチュラル詐欺師ですよ。目のバキバキぶりとかからしても今話題の堀大輔を彷彿とさせるものがありますよね。

面白いのがそんな彼女にはイケメン金持ちのパートナー、ビリーがいるんですよ。最初はてっきりビリーはエリザベスに洗脳されて、入れ込んじゃったのかなあと思ってたら、ビリーもしっかり狂ってて、例にもれず目がバキバキなんですよ。みんなショートスリーパーなのかなあ。

それも話を聞いていくと、エリザベスのかなりの部分をビリーがコントロールしているのが分かり、収監後はエリザベスのXのアカウントをビリーが運営し、本人がとても言わなそうなことをつぶやいたり、エリザベスの画像を自由に使ってビルボードに広告だしたりして、どっちが洗脳されてるのか分からなくなってくる、というホラーカップルになっていました。

だけど監督も言っていたんだけど、ホラーカップルはホラーカップルで、お互いを理解していて、子供も育てていて、それはそれで幸せそうなんですよね。そし手歪んでるかもしれないけど、まぎれもない「愛」を感じるんですよ。

イケメン金持ちのビリーはエリザベスに執着する理由が全くないけど、自ら問題に足を突っ込んで、狂人と家族を築くことを選んだところを見ると、それはそれで否定できない美しい絆を感じました。

この映画の問題点は、実際どんな事件だったかには触れていないことです。アメリカでは有名な事件だからか、基本的にすでに事件について知っている前提で話が進んでいく気配があるので、エリザベスが何者か、どんな事件を起こしたのかは見る前に下調べしたほうがいいかもしれません。

日本語ではこの動画が分かりやすく説明してくれています。

もう一つの問題点は女優のアマンダ・サイフリッドのパートです。アマンダは、エリザベスの再現ドラマでエリザベスを演じた経験から監督からインタビューを受けたんですが、思いのほか反応が良かったからかがっつり出演し、それも本作の中でも再現VTRをアマンダが演じています。

もしそのパートが短時間ならまだしも、出演時間があまりにも長く、そのせいで上映時間が約3時間に達してるんですよ。撮影できなかった場面を再現するためだけに出演させておけばよかったのに、エリザベスのことを知る人物としてエリザベスを分析させる、ドキュメンタリーに第三者の視点を導入するという欲張った役割を持たせたせいで、アマンダがでしゃばってるかのように見えてしまうのが残念でした。完全に監督のミスですね。エリザベスの話なのに途中からアマンダの話みたいになってるから。

しかしながらたとえそれがあったとしても全体的にはいい映画だったと思います。エリザベスとビリーの二人は、現在もなお血液検査のことは諦めてないらしく、ビリーが新しい会社を立ち上げて、エリザベスの構想を実現させようと奮闘しているようです。

エリザベスの「誰でも安価に簡単にあらゆる検査ができる」という発想自体は素晴らしいんですけどね。近い将来彼らじゃなくてもAIや誰かが実現しそうな気もするし、投資家や消費者さえ騙さなければエリザベスも天才になりえたかもしれないんですけどね。天才と狂人が紙一重とはよく言ったもので、天才になり損ねた女の半生を見るにはもってこいの映画だと思いました。

 

 

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