SM中級者向けの痛くて苦しい変態恋愛ドラマ。主人公が我を忘れてドMになっていく様子がちょっと面白いです。63点
ブレスレスのあらすじ
外科医のユハは幸せな生活を送っていたある日、水難事故で最愛の妻を失った。それ以来ユハは残された娘のエリーと共に虚無感を抱きながら毎日を生きていた。
事故から何年もの月日が経ち、娘のエリーは少女からティネイジャーになった。ある日、ユハはエリーの誕生日の記念に舌にピアスを入れようとしていた彼女に付き添い、SMクラブが併設されたタトゥーショップに行く。
娘がピアスを入れている間、ユハはSMの部屋へと迷い込み、SM嬢のモナに首を絞められてしまう。今にも失神しそうになるまで首を絞められたユハだったが、そのとき思わぬ快楽を感じたと同時に死んだ妻の姿を見た。
その体験に病みつきになったユハは、それから幾度となく、モナのもとを訪ね、たちまちSMにのめり込んでいく。
ブレスレスのキャスト
- クリスタ・コソネン
- ペッカ・ストラング
- イロナ・フッタ
- ヤニ・ヴォラネン
- オーナ・アイロラ
- アイリス・アンティラ
- エステル・ガイスレロヴァー
ブレスレスの感想と評価
ユッカペッカ・ヴァルケアパー監督による、カンヌ映画祭で出品されたフィンランド映画。官能ドラマとも恋愛ドラマともブラックコメディともいえる作品で、分かりそうで分からないSMストーリーです。
英題の「Dogs Don’t Wear Pants(犬はズボンを履かない)」は劇中に女王様が奴隷に言うセリフです。つまり犬のくせに服なんて着るんじゃねえよっていう決めセリフで、この映画のタイトルとしては絶妙だと思います。なんで邦題もこれにしなかったんだろう。
SM映画といえば僕が真っ先に思い浮かぶのはフランス映画の「ピアニスト」でしょうか。
村上龍が撮った「トパーズ」とかいうしょうもないSM映画もありましたね。
そういえば「フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ」とかいうソフトSM映画もありましたね。
たいがいどの映画もSがMに暴力を振るったり、辱しめたりといった様子を見せる点で共通していますが、本作の場合、主人公のユハは痛みや苦しみを通じて得る快楽だけでなく、自殺願望まである、というのが特徴です。
そのせいでユハはついつい限界を超えようとしてしまい、プレイ中に度々生死の間をさまよいます。
特にビニール袋を顔にかぶされ、呼吸困難にされるのが最高に気持ちいいようで意識を失う、いわゆる「落ちる」瞬間がたまらないようです。
そしてユハは毎回のようにその瞬間に死んだ妻の姿を見ます。溺れて死んだ妻は幻覚の中でも水の中にいて、まるで人魚のように幻想的な美しく映ります。
ユハがSMにはまっていったのは果たして愛する妻と再会するためなのか。それとも痛み、苦しみそのものに対する快楽に溺れていったせいなのか。あるいはSM嬢モナに対する歪んだ愛情の末なのか、いずれもはっきりしません。
その辺の解釈は自由にできそうですが、もしかするとユハ自身も自分が体験しているものが一体なんなのかよく分かっていなかったのかもしれませんね。まさにそうした未知の世界、Mの世界への目覚めが濃厚に描かれていて、なかなか興味深かったです。
SMにのめり込むといっても、ときどきSMクラブに通うといった生半可なものではなく、ユハは外科医の仕事も途中で放り投げ、娘との約束もすっぽかし、いわば生活全般を捨ててしまおうとまでします。
そして鞭で叩かれるとか、ろうそくのろうと垂らされるとか、放尿をされる、といったレベルのプレイではなく、死ぬ寸前まで窒息ごっこをしたり、ペンチで歯を抜いてもらう、といった荒業までやってのけます。
ただ、そうした一連のプレイには痛みこそ伝わってくるものの、エロティックな要素があるかといったら少なくとも僕には感じられませんでした。女王様がもっとエロエロな外見だったらよかったんですけどね。
もしかするとSM好きの人たちにはたまらないのかもしれないけど、ヌードもないし、セックスシーンもほとんどないんですよ。それでもディープに感じるんだから撮り方がよっぽど上手いんでしょう。
物語は終始主人公のユハ自身の目線で進んでいくのがポイントで、あれをもし娘目線にしたらたまったもんじゃないですね。
自分の父親がSMにはまって仕事には行かなくなるわ、救急車に運ばれて入院するわ、部屋で全裸でおかしなことしてるわで、年頃の娘からしたら嫌悪感しか覚えないんじゃないでしょうか。
それにしても娘のエリーは寛容的だったし、父親思いのいい娘でしたね。もっと怒っていいのに。もし10代のときに父親がある日突然こんな格好し出したら家出て行くわ。ラストシーンの吹っ切れた感じ、気持ち悪かったぁ。
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