人生にとって一番大事なのは時間だと気づかされる、時間の無駄遣い映画。リアリティーが乏しく、面白味に欠けます。23点
ある画家の数奇な運命のあらすじ
ナチス政権下のドイツ、少年クルトは叔母のエリザベトを慕っていた。叔母は芸術に造詣が深く、クルトは彼女の影響を受けていた。
ところがそんなエリザベトは精神を病み、精神病院に送られ、ナチスの政策によりガス室で安楽死させられてしまう。
まもなくして第二次世界大戦は終結し、クルトは東ドイツの美術学校に進学する。そこで叔母の面影を感じさせる女学生エリーと出会い、恋に落ちる。
しかしエリーの父親は叔母をガス室に送り込んだナチスの高官であり、婦人科医のカールだった。
ある画家の数奇な運命のキャスト
- トム・シリング
- セバスチャン・コッホ
- パウラ・ベーア
- ザスキア・ローゼンダール
- オリヴァー・マスッチ
ある画家の数奇な運命の感想と評価
「善き人のためのソナタ」、「ツーリスト」などの作品で知られるフロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク監督による、ドイツ芸術界の巨匠、ゲルハルト・リヒターの半生をもとにしたらしい芸術もどきの駄作。
3時間を超える退屈な会話とストーリーにため息が止まらなくなり、時間を返してもらいたくなること間違いなしです。
この映画の嫌いなところは、ゲルハルト・リヒターの名前で客寄せをしておいて、「人物の名前は変えて、何が事実か事実でないかは、互いに絶対に明かさないこと」という条件の下で製作された、という点です。それをミステリアスとか言ってる時点でちゃんちゃらおかしいし、なんだったら主人公が絵描き、という以外、全部フィクションかもしれないよね。
そんな腰抜け伝記ドラマになんの意味があるよって。そもそも真実を語る気のない映画で、名セリフのように「真実は美しい」とか言っちゃってるからね。ドイツのギャグもなかなか濃いよね。
別にフィクション込みでも面白ければいいんだけど、蓋を開けたら、毎度お馴染みのナチスストーリーだからね。アイデア不足も甚だしいです。「コリーニ事件」もそうだけど、最近のナチス映画って、戦時中、悪さしていたナチスの高官と被害者、あるいは被害者家族が戦後、再び対峙するみたいな話ばっかりじゃない? もういいよ、そのパターン。
まだ、ストレートに復讐劇にしてくれたほうがすっきりしたのに、なんか最後は主人公が芸術でやり返したぞみたいな顔して終わりだからね。なんだそのドヤ顔。
僕にとってこの映画の主人公は、芸術家のクルトじゃなくて、極悪元ナチス高官の婦人科医カールです。なぜかというとカールが一番出番が多いからです。最初の一時間、クルトの出番なんてほんのわずかで、カールが一番悪い意味で活躍します。
カールはナチスドイツ政府の命令で、障害者や精神病者を一斉虐殺する政策を実行し、挙句の果てには娘が妊娠しても、相手の男が相応しくないという理由で、娘にまで中絶手術を強制してしまうほどの悪魔です。
そしてそんな悪者と、時代やナチズムに翻弄されながらも、絵によって自分の体験、気持ち、思いを表現しようとする純粋な芸術家とその嫁という構図がつまらないです。
あんなひどい目に遭わされて、夫婦が父親と関係を続けていくことなんて絶対ありえないし、クルトなんて仕事まで斡旋してもらってるからね。絶交しない理由は何?
見せ場がとにかく少なく、妊娠、中絶、流産、そしてまた妊娠といった部分ばかり強調されているので、ゲルハルト・リヒターの半生だって知らない人が見たら夫婦の妊活物語にしか見えないですね。セックスシーンを何度も入れているのもその整合性を取るためでしょ。子作りセックスなんか見せられても色気なんか出ないんだから。
この作品もまた、芸術かぶれたちが拡大解釈してくれてるから、だいぶ助かっている映画ですよね。やれ原点回帰だ、原体験だ、優生主義だ、敗退芸術だ、などそれっぽいこと言ってれば優越感に浸れる人にはいいんじゃないでしょうか。
僕が一番嫌いなシーンは、クルトの叔母がバスの運転手たちに頼んで、クラクションを一斉に鳴らしてもらう下りで、ラストシーンは伏線にもなっていない、その伏線を回収するかのように主人公が同じことをします。
あのねえ、バスの運転手だって暇じゃないんだよ。あの中には仮眠を取ってる人もいるかもしれないのに邪魔するんじゃねよ。運転手をなんだと思ってるんだよ。
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