2016/02/18

ルック・オブ・サイレンス(原題THE LOOK OF SILENCE)

look

インドネシアで1960年代に起きた大虐殺で自分の兄を失った男性が加害者たちとその家族にインタビューを敢行する突撃ドキュメンタリー。戦争と平和の状況下での人間性を映し出す貴重な映画で、賛否両論が沸き起こること間違いなしです。50点(100点満点)

あらすじ

1960年代のインドネシアで秘密裏に行われ、およそ100万人もの命が奪われた大量虐殺。眼鏡技師の青年アディさんは、自分が生まれる前に兄が惨殺されたことを知り、さらに加害者たちがインタビュー映像でその模様を喜々として語る姿にショックを受ける。加害者たちがどのような思いで殺りくに手を染めたのか、そして罪を犯したことを自覚させたいと考えたアディさんは、ジョシュア・オッペンハイマー監督と一緒に彼らと会うことを決意。視力検査を行いながら、加害者たちからさまざまな言葉や真実を引き出そうとするが……。


シネマトゥディより

アカデミー賞ノミネート作品」です。「アクト・オブ・キリング」のジョシュア・オッペンハイマー監督による続編とも言える、インドネシアの大量虐殺の加害者たちをインタビューしていく記録映画で、いろいろ考えさせられる内容でした。

本作は眼鏡技師の青年アンディさんが視力検査と称して、加害者たちに接近し、インドネシアの闇の歴史について本音インタビューをしていくというスタイルを取っています。

アンディさんは自分の実の兄を残虐なやり方で殺害された、いわば被害者の家族です。そんな彼が次々と虐殺に携わった加害者たちをインタビューしていくと、大抵の加害者たちは後悔やトラウマといった言葉は口にせず、中には自慢気に人を殺した当時のことを語りだします。

そのインタビューの最中にアンディさんは自分の兄が殺されたことをカミングアウトします。すると加害者側は怪訝な顔をし始め、二人の間にピリピリとした雰囲気が張り詰め、そこに両者の様々な思惑と心理が浮かび上がる、といった撮影の仕方になっています。

僕は序盤から中盤にかけてアンディさん側の目線で話を追っていました。それはあまりにも加害者たちの武勇伝ふうな語り口調が不快だったからです。しかし中盤から終盤にかけて、おや?とある種の違和感を覚えました。それはアンディさんが加害者本人はもちろん、加害者家族にまでインタビューをし始めるからです。

「私の兄は大虐殺の被害者で、ナイフで胸を刺され、背中を刺され、腸が体の外に飛び出して、大量の血を流し、殺されました。あなたのお父さんはこの虐殺に関わり、たくさんの人の殺しましたが、あなたはそれについてどう思いますか?」

正直、当人に聞くならまだしも、当時まだ子供だったその息子、娘たちをこのような言葉で非難するのはどうかと思いましたね。そしてこのシーンを見たとき、果たして本当にアンディさん本人はこんなことが聞きたかったのだろうか、という疑問が沸いたのです。

この映画を見世物として考えたときに、加害者家族と被害者家族の対峙シーンというのは前代未聞の緊迫したリアルなシーンになるかもしれません。ただ、それをアンディさんが「今度は加害者の家族に話を聞こうよ!」と自分から監督にもちかけたとはとても思えないのです。ああ、やらされてるんだなあ、という印象が強くてなんだか悲しくなってきます。

しかしその違和感こそが、もしかしたら監督が視聴者に伝えたかった「メッセージ」なのかもしれません。加害者たちの発言を聞いていると、誰もが「自分の責任ではない」と口を揃えます。悪いのは自分たちを操っていた政府であると。確かに戦争の混乱の中、特に独裁政権や軍事政権の中で、誰が政府に逆らえるというのか、という話にもなってきます。

そしてこの映画を見てふと、元日本軍の兵士たちに映画撮影のために「あなたは何人殺したんですか? 後悔してないんですか? 全く悪いと思っていないんですか?」などと問いかけるインタビューアーがいたら、ちょっと酷だなあ、という気もしました。

武勇伝を語る加害者の一人がとても興味深いことを言っていました。

「俺たちはあれだけ共産主義者を殺したんだから、賞金としてアメリカ旅行のチケットかクルージングの旅でもくれないとおかしい。だってあれだけ共産主義者を嫌うように俺たちに教えたのはアメリカ人じゃないか」。

大量虐殺に手を染めた人たちのほとんどが、被害者たちを”共産主義者”と決め付けて、殺害を正当化していたのが印象的でした。なんでも共産主義者たちは神を信じず、女たちは誰とでも寝るから、殺してもいいんだそうです。

厳格なイスラム教徒たちからすると、アラーの神を信じず、さらに乱交ばかりしてるなんていう人間はもはや人間じゃないくらいの感覚らしいんですが、そもそもその情報は彼らを洗脳するために流し込まれた噂だとアンディさんは反論します。

前述の加害者の証言からも分かるようにアメリカ政府は当時かなり反共産主義のプロパガンダを掲げていたので、裏で相当手回しをしていたはずで、神を信じないというのも、乱交しているというのも、CIAが地元のメディアを使って流したデマなんじゃないかなあ、なんてことを僕は疑ってしまいます。